香港に本店を有するA投資銀行は、第1回円貨外債(本件社債)をY証券会社を主幹事会社として募集・販売した。
募集に係る届出の効力は平成9年6月17日に生じ、申込期間は同日から同月27日まで、払込期日(受渡日)は同月30日とされた。
Xは、平成9年6月17日の電話においてY社B支店の担当者Cとの間で、本件社債を代金1000万円で購入する契約を締結し、同月25日に購入代金を支払ったが、担当者Cらは本件社債に係る目論見書を売買契約締結後にXに送付した。
Y社B支店では、売買契約の締結に先立ってXに対し本件社債の販売要領と会社概要を記載した文書を送付しており、同文書には、本件社債の発行条件、格付け、A銀行の財務状況、業績に関する情報等が記載されていた。
他方、本件社債の目論見書「第一部 証券情報」の「第2 事業の概況等に関する特別記載事項」には、当グループ(A銀行とその全子会社)のすべての業務は実質上アジアの金融市場にあるところ、日本を除く同市場は未開発で西側の市場と比較して変動が激しく大幅に遅れた段階にあること、当グループの事業はすべての面で激しく競争的で、競争企業の多くは当グループよりはるかに多大の資本等の資源、国際的影響力、香港外での知名度を有していること、当グループの直接投資の多くは証券が公開取引されておらず市場において取引されるに至らない企業に対して行なわれているなどといった、事業経営上のリスク情報が記載されていた。
A銀行は、アジア通貨危機の影響で保有していたインドネシア企業向けの債権が不良化し、平成10年1月に清算を余儀なくされ、本件社債は債務不履行(デフォルト)になった。
そこでXは、Cらの行為が、本件社債の購入を勧めるについて債務不履行又は不法行為等に当るなどとして、Y社に対し損害賠償を請求した。
第1審判決がXの請求を一部認容したため、X・Y社双方が控訴した。 |