目論見書の交付義務違反に基づく証券会社の損害賠償責任

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目論見書の交付義務違反に基づく証券会社の損害賠償責任

東京高判平成12年10月26日(損害賠償請求事件)
判時1734号18頁、判夕1044号291頁、金判1106号37頁

<事実の概要>

香港に本店を有するA投資銀行は、第1回円貨外債(本件社債)をY証券会社を主幹事会社として募集・販売した。

募集に係る届出の効力は平成9年6月17日に生じ、申込期間は同日から同月27日まで、払込期日(受渡日)は同月30日とされた。

Xは、平成9年6月17日の電話においてY社B支店の担当者Cとの間で、本件社債を代金1000万円で購入する契約を締結し、同月25日に購入代金を支払ったが、担当者Cらは本件社債に係る目論見書を売買契約締結後にXに送付した。

Y社B支店では、売買契約の締結に先立ってXに対し本件社債の販売要領と会社概要を記載した文書を送付しており、同文書には、本件社債の発行条件、格付け、A銀行の財務状況、業績に関する情報等が記載されていた。

他方、本件社債の目論見書「第一部 証券情報」の「第2 事業の概況等に関する特別記載事項」には、当グループ(A銀行とその全子会社)のすべての業務は実質上アジアの金融市場にあるところ、日本を除く同市場は未開発で西側の市場と比較して変動が激しく大幅に遅れた段階にあること、当グループの事業はすべての面で激しく競争的で、競争企業の多くは当グループよりはるかに多大の資本等の資源、国際的影響力、香港外での知名度を有していること、当グループの直接投資の多くは証券が公開取引されておらず市場において取引されるに至らない企業に対して行なわれているなどといった、事業経営上のリスク情報が記載されていた。

A銀行は、アジア通貨危機の影響で保有していたインドネシア企業向けの債権が不良化し、平成10年1月に清算を余儀なくされ、本件社債は債務不履行(デフォルト)になった。

そこでXは、Cらの行為が、本件社債の購入を勧めるについて債務不履行又は不法行為等に当るなどとして、Y社に対し損害賠償を請求した

第1審判決がXの請求を一部認容したため、X・Y社双方が控訴した。



<判決理由>Xの控訴棄却、原判決中Y敗訴部分取消、Xの請求棄却。

「Y社は、証券取引法15条2項に違反して、あらかじめ又は同時に本件目論見書をXに交付しなかったものであるところ、Y社がXに対し同胞16条による損害賠償責任(無過失責任とされている。)を負うのは、右違反行為とXが被った損害との間に相当因果関係があることを要するので、この点について検討する。

Xが被った損害は、本件社債の発行会社であるA銀行が倒産したために生じたものであるところ、XがY社の勧誘を受けて本件社債を購入した時点では、本件社債は、格付機関によりBBB+と格付され投資適格債券とされていたものであり、A銀行は、香港の中国返還前後に相次いだ中国系企業の香港上場等で急成長したアジアの業界トップ企業とされていたのであるから、A銀行が近い将来倒産することを予見することは、Y社にとっても不可能であったものと認められる。

そして、Xは、Y社から本件社債を購入する際には、本件目論見書があらかじめ又は同時に交付されるべきであることを知っていたが、購入に先立ってY社に対して本件目論見書の交付を求めることなく、かつ、事後に送付された際にも、その記載内容がCらの勧誘行為における説明と異なるとか、本件目論見書をあらかじめ見ていれば本件社債を購入しなかったなどの苦情、抗議、解約の申出等を一切しておらず、また、その後においても、本件社債を売却しようとしたことはなかったのであり、本件目論見書の「事業の概況等に関する特別記載事項」の事業経営上のリスク等についての記載を検討してみても、A銀行が近い将来に経営状態が急激に悪化して倒産することをうかがわせる記載があるものと認めることができず、A銀行及び本件社債についての右評価を左右するようなものと認めることはできない。

・・・そうすると、Xにおいて、あらかじめ又は同時に本件目論見書の交付(送付)を受けたとすれば、本件社債を購入しなかったであろうとまでは認めることができない。

以上の事情を併せ考慮すると、Y社がXに対し本件目論見書をあらかじめ又は同時に交付しなかったことと、A銀行が倒産したことによりXが被った損害との間に相当因果関係は存しないというほかない

したがって、Y社は、証券取引法16条による賠償責任を負わない。

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