X株式会社は、Y銀行に対して、Xが船主Aから定期傭船していた油槽船アリアドネ号の傭船料の支払のため、通知払式電信送金により支払事務代行者であるBを受取人として送金を依頼した。
送金された傭船料は、BによってただちにAに支払われることになっていた。
傭船契約においては、傭船料の支払を遅滞したときは、Aは催告なしに本船を引き上げることができる旨の約定があった。
Xは本船を第三者に再傭船に供しており、本船と同程度の船舶を再傭船するための傭船料は、1ヶ月1載貨重量トンあたり4ドル以上であった。
YはXの依頼を受けて、ニューヨークのC銀行に対し、Bの口座に入金するよう打電をしたが、送金人の名前をXの商号である「昭和海運株式会社」ではなくSHINWKAIUN・KAISYAと表示した。
指図を受けたCは、送金受取人のBに対し送金人はSHINWA・KAISYAであると通知した。
Bの担当者は、送金人として通知されたSHINWA・KAISYAは数年前まで長期に取引のあった新和海運株式会社の名称と酷似していたためSHINWA・KAISYAから指示があるものと考え、送金金額を雑勘定に入れた。
なお、傭船料は船舶の故障等による傭船中断があると支払時期がずれるという事情もあったことが認定されている。
結局のところ、Bは本件送金がXによってなされたことに気づかずにAへの入金手続を取らなかった。
そこで、Aは傭船料不払いを理由にXに対し本船を引き上げる旨通知した。
XとAとの協議の結果、本船の傭船料を1ヶ月1載貨重量トンあたり2、775ドル(ただしこの額は本件傭船契約の中途より2、815ドルに変更された)から3、5ドルに増額して本件傭船契約を継続する旨の合意が成立した。
XがYに対し、旧傭船料と新傭船料との差額及び遅延利息の損害賠償を求めたのが本件である。
判旨は、Yが受取人に対し送金人の名を通知すべき契約上の義務を負い、その義務の違反があったことを認定した上で、損害の範囲につき次のように判示した。 |