A株式会社は、2750万円の増資をしようとしたが、最終申込期日における新株の引受申込額は461万円にすぎなかった。
そこで、A社の代表取締役から増資手続を委ねられていた取締役Y1(被告人)は、株式払込取扱銀行であるB銀行甲支店長のY2(被告人)と相談して、増資手続完了後直ちに返済する約束の下に、B銀行甲支店からA社に770万円、A社代表取締役C個人に1500万円の各貸付がなされた。
A社の借入分770万円は、A社の経理上、次のように処理された。
すなわち、同金額は、A社からその従業員への預り金・借受金の返済等にあてられ、新株引受人たる同社の従業員はこの返済金等をもって本件新株払込金に充当するものとされた。
Cが借り受けた1500万円もまた、Cの本件新株の払込金にあてられた。
これらの金員は新株払込金として同支店の別段預金口座に振替記帳されただけで、実際に金銭の授受はなされなかった。
Y2はY1に対し2750万円の株式払込金保管証明書を交付し、Y1はそれに基づき所定の増資手続を完了すると、翌日、Y1は、直ちに銀行に対してA社及びCの前記借入金を保管金から返済した。
なお、日歩2銭6厘の割合による2日分の利息の支払のために、A社からB銀行に対し小切手が交付された。
こうした事実に基づいて、検察官は被告人Y1・Y2が共謀して株式払込を仮装したものとして、Y1を預合罪、またY2を応預合罪で起訴した。
第1審・第2審ともに、公訴事実を有罪と認めた。
これに対し、Y1・Y2は上告し、A社の従業員らに対する負債が消滅した以上、資本の充実が現実になされており、しかも従業員は真実その意思をもってA社からの返済金を本件引受株式の払込金に充当したのであるから、同払込金は仮装のものではないと主張した。 |