計算書類承認決議取消しの訴え

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計算書類承認決議取消しの訴え

最判昭和58年6月7日(株主総会決議取消請求事件)
民集37巻5号517頁、判時1082号9頁、判夕500号111頁

<事実の概要>

Y株式会社は、昭和45年、第42期の株主総会を開催したが、当時Y社は、「水俣病を告発する会」による株主運動の対象となっていた。

本件株主総会の会場の定員は1110名であったが、同会の一株株主を含め、約1400人の株主が参集したため、同会の会員であるXを含め、約300人の株主は会場に入り提出された修正動議も無視してわずか4分前後で審議を終え、計算書類等の承認を求める議案が可決されたとして総会を終了した。

そこでXらは、株主が会場に入場できなかったことや動議を無視して決議したことが株主総会決議取消事由に該当するとして、本件株主総会の決議取消しを求めて提訴した。

第1審はXの請求を認容した。

これに対しY社は、取消事由の存在について争ったほか、控訴審以降、現在(上告時点では第54期)においては、第42期の決算承認決議を取消しても実益がないこと、また、修正動議の無視の瑕疵については、その動議以上の水俣病の補償金及び対策費が支出され、その目的が達成されていることから、訴えの利益を欠くに至ったとの主張をしている。

原審は控訴棄却、

Y社は上告した。



<判決理由>上告棄却。

「株主総会決議取消の訴えのような形成の訴えは、法律に規定のある場合に限って許される訴えであるから、法律の規定する要件を充たす場合には訴えの利益が存するのが通常であるけれども、その後の事情の変化により右利益を喪失するに至る場合のあることは否定しえないところである。

しかして、XらのY社に対する本訴請求は、・・・Y社の第42回定時株主総会における「・・・第42期営業報告書、貸借対照表、損益計算書、利益金処分案を原案どおり承認する」旨の本件決議について、その手続に瑕疵があることを理由として取消を求めるものであるところ、その勝訴の判決が確定すれば、右決議は初めに遡って無効となる結果、営業報告書等の計算書類については総会における承認を欠くことになり、また、右決議に基づく利益処分もその効力を有しないことになって、法律上最決議が必要となるものというべきであるから、その後に右議案につき再決議がされたなどの特別の事情がない限り、右決議取消を求める訴えの利益が失われることはないものと解するのが相当である。

・・・本件につきかかる特別の事情が存するか否かについて検討する。

この点に関し、論旨は、本件決議が取消されたとしても、右決議ののち第43期ないし第54期の各定時株主総会において各期の決算案は承認されて確定しており、右決議取消の効果は、右第43期ないし第54期の決算承認決議の効力に影響を及ぼすものではないから、もはや本件決議取消の訴えはその利益を欠くに至ったというのであるが、株主総会における計算書類等の承認決議がその手続に法令違反等があるとして取消されたときは、たとえ計算書類等の内容に違法、不当がない場合であっても、右決議は既往に遡って無効となり、右計算書類等は未確定となるから、それを前提とする次期以降の計算書類等の記載内容も不確定なものになると解さざるをえず、したがって、Y社としては、あらためて取消された期の計算書類等の承認決議を行わなければならないことになるから、所論のような事情をもって右特別の事情があるということはできない。」

「また、論旨は、修正動議無視の瑕疵は、・・・右動議の目的がすでに達成されているので、右瑕疵は治癒され訴えの利益は失われたというが、XらのY社に対する本訴請求は、株主の入場制限及び修正動議無視という株主総会決議の手続き的瑕疵を主張してその効力の否認を求めるものであるから、右修正動議の内容が後日実現されたということがあっても、そのことをもって右特別の事情と認めるに足りず、他に右特別の事情を認めるに足る事実関係のない本件においては、訴えの利益を欠くに至ったものと解することはできない。」

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