平成3年3月25日、A株式会社は銀行取引約定書(以下、「本件約定書」)を差し入れて、Y銀行と取引を開始した。
本件約定書5条1項には、Aが手形交換所の取引停止処分を受けたときには、AのYに対する一切の債務について当然に期限の利益を失う旨、4条4項には、AがYに対する債務を履行しなかった場合には、Yが占有するAの動産、手形、その他の有価証券は、Yが取立て・処分でき、その取得金から諸費用を差し引いた残額を法定の順序にかかわらず債務の弁済に充当できる旨、規定されていた。
平成5年1月25日、YはAに対し、手形金額98万余円の約束手形(以下、「本件手形」)の割引を申し込んだ。
Yは信用照会の結果を見てから本件手形の割引を実行することとして、本件手形を預ったが、翌25日、Aが振り出した決済見込みのない手形が手形交換から回ってきたので、本件手形の割引を見送った。
Aは、同日と翌26日に手形を不渡とし、同月31日に銀行取引停止処分を受け、遅くともこの時点において、上記貸付金債務について期限の利益を失った。
Aは、同月30日に破産の申立をし、同年4月15日に破産宣告(破産手続開始決定)を受け、Xが破産管財人に就任した。
同年5月、XはYに対し本件手形の返還を求めたが、Yはこれを拒絶し、本件手形の支払期日である同年6月10日に手形交換によって本件手形を取り立て、上記貸付金債権の弁済に充当した。
そこで、Xは、Yが本件手形の返還を拒絶したうえ、本件手形を支払期日に取り立ててYのAに対する債権の弁済に充当したのは不法行為に該当するとして、Yに対し、本件手形金額相当の損害賠償を請求した。
原審は、Yが本件手形について取得した商事留置権は、Aが破産宣告を受けたことにより特別の先取特権とみなされるが(改正前破産法93条1項。現行破産法66条1項に相当)、この場合、留置権としての効力は失効し、本件約定書4条4項の処分権はAの委託に基づくものであって、Aの破産により当該処分権は消滅する、としてXの請求を認容した。
これに対してYが上告した。 |