Xは金融を業とする株式会社、Yは毛糸類売買を業とする株式会社である。
A株式会社は、その所有するラムアンゴラ毛糸824キログラム(以下、「本件毛糸」)を、借受金の担保として、Xに対し譲渡担保に供していた。
Aが倒産したため、Xは本件毛糸を換価処分しようとしたが、Xは金融業者であって毛糸の換価は困難であった。
そこでXは、Aの代表者であったBに本件毛糸の売却を委託した。
BはXの委託に基づき、Xのためにする意思をもって、従前Aと取引があったYとの間で、代金40万余円で本件毛糸を売却する旨の売買契約を締結し、本件毛糸をYに引き渡した。
しかしBは、売買契約締結にあたり、Yに対しXの代理人であることを表示せず、YにおいてもBがXの代理人であることを知りうべき事情はなかった。
XはYに対し売買代金の支払を求めたが、Yは本件売買契約の相手方はAであってXではなく、本件毛糸に関する代金債務は、YがAに対して有する売掛債権(41万余円)と対等額にて相殺したと主張した。
原審は、商法504条は民法100条の規定を修正して立証責任の転換を図ったものであり、商法504条本文が適用されるのは、相手方において代理人が本人のために行為したことにを知り得べかりし場合に限られるとして、本件の事実関係のもとでは、本件売買契約はXに対して効力を生じていないとした。
これに対してXが上告した。 |