大和銀行株主代表訴訟事件

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大和銀行株主代表訴訟事件

大阪地判平成12年9月20日(株主代表訴訟事件、共同訴訟参加請求事件)
判時1721号3頁、判夕1047号86頁、金判1101号3頁

<事実の概要>

本件は、A銀行の株主であるXらが、同行の行員Bが、昭和59年から平成7年までの間、同行に無断かつ簿外で米国財務省証券の取引を行って損失を出し、この損失を隠蔽するために顧客、A銀行所有の財務省証券を無断かつ簿外で売却して、A銀行に約11億ドルの損害を与えたことについて、@当時代表取締役及びニューヨーク支店長の地位にあった取締役に関しては、行員による不正行為を防止するとともに、損失の拡大を最小限にとどめるための内部統制システムを構築すべき善管注意義務・忠実義務があったのにこれを怠ったことを理由として、Aその余の取締役及び監査役に関しては、代表取締役らが内部統制システムを構築しているか監視する善管注意義務・忠実義務があったのにこれを怠ったことを理由として、損害賠償を求めた。

(乙事件)A銀行が、ニューヨーク支店において本件無断取引等により約11億ドルの損害が発生したことを米国当局に隠蔽していたなどとして、米国において刑事訴追を受け、そのうち一部の訴因について有罪の答弁を行って、罰金を支払ったことについて、@当時代表取締役及びニューヨーク支店長の地位にあった取締役に関しては、内部統制システム構築義務違反、米国における法令を遵守する義務の違反を理由として、Aその余の取締役及び監査役に関しては、内部統制システムの構築に関する関し義務違反、米国における法令を遵守しているかについての監視義務違反を理由として、A銀行が支払った罰金3億4000万ドル及び当該刑事事件に関し支払った弁護士報酬1000万ドルの合計3億5000万ドル等を同行に賠償するよう求めた。



<判決理由>

判示は、「健全な会社経営を行うためには、目的とする事業の種類、性質等に応じて生じる各種のリスク、例えば、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、事務リスク、システムリスク等の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。

そして、重要な業務執行については、取締役会が決定することを要するから(商法260条2項)、会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については、取締役会で決定することを要し、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は、大綱を踏まえ、担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき職務を負う。

この意味において、取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものというべきである。

監査役は、商法特例法22条1項の適用を受ける小会社を除き、業務監査の職責を担っているから、取締役がリスク管理体制の整備を行っているか否かを監査すべき職務を負うのであり、これもまた、監査役としての善管注意義務の内容をなすものと言うべきである。」と一般論を述べた上で、「ニューヨーク支店における財務省証券取引及びカストデイ業務に関するリスク管理体制は、当法廷に提出された証拠上は、大綱のみならずその具体的な仕組みについても、整備されていなかったとまではいえない」としつつ、「A銀行本部(検査部)、ニューヨーク支店及び会計監査人が行っていた財務省証券の保管残高の確認は、その方法において、著しく適切さを欠いていたものと評価され」「A銀行のリスク管理体制は、この点で、実質的に機能していなかったものと言わなければならない。」とした。

その上で、(1)検査部及びニューヨーク支店長を務めた5名の業務担当取締役あるいは使用人兼務取締役のうちニューヨーク支店長を務めた3名について任務懈怠の責任を認め、(2)代表取締役頭取・副頭取については「頭取あるいは副頭取はは、各業務担当取締役にその担当業務の遂行を委ねることが許され、各業務担当取締役の業務執行の内容につき疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り、監督義務懈怠の責を負うことはないものと解するのが相当である。」とした。

(3)また、検査部及びニューヨーク支店の指揮系統に属さない取締役について、ニューヨーク支店における財務省証券の保管残高の確認方法について疑念を差し挟むべき特段の事情がない限り、不適切な検査方法を採用したことについて、取締役としての監視義務違反を認めることはできないとした。

(4)最後に、監査役については、ニューヨーク支店に往査し、会計監査人の監査に立ち会った監査役についてのみ責任を認めた

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