東証二部上場会社であるA株式会社は、石油ショックによる需要の後退を契機として経営に行き詰まり、倒産の危機に陥った。
そこで、A社の代表取締役Y1及び常務取締役Y2は、再建策として、第三者割当増資による新株発行を計画した。
しかし、業界紙にこの増資を疑問視する記事が出たため、割当先になっていたB株式会社及びC株式会社が、払い込みに必要な資金の融資を受けられなくなった。
そこで、Y1とY2らの共謀により、(1)B社がA社振出しの手形の割引金3億円をA社から借り、(2)C社がA社の連帯保証の下に金融業者のD株式会社から10億円を借り、(3)B社がA社の有する2億円の通知預金を担保に同額をD社社長Eから借り、(4)B社がF銀行の保証の下にG保険会社から1億円を借り、それぞれ払い込みをした。
(1)ないし(3)については、払込後数日のうちに払込金が払い戻され、手形の決済やD社・Eへの借入金の返済に充てられ、(4)については、払込金が定期預金に振り替えられ、それに保証人であるF銀行のための質権が設定された。
払い込みの当時、B社及びC社は倒産寸前の状態にあり、到底確実な債務返済能力はなかった。
以上のような払い込みに基づき、新株発行による発行済株式総数増加の変更登記を申請し、登記官をして商業登記簿原本にその旨の記載をさせたことにつき、Y1とY2らは、公正証書原本不実記載罪(刑法157条)に問われた。
第1審・第2審は同罪の成立を認めたため、Y1・Y2が上告。 |