電気器具の販売を営むXは、運送業を営むY株式会社に、Yの岡山支店で保管していたテレビ拡大レンズ280ケースの、岡山支店から福岡市のA株式会社までの運送を委託した。
Yは誤って本件物件を福岡市所在のB株式会社に配送し、Bからその返還を受けることができないため、Yの本件運送契約上の債務は履行不能となった。
Yは本件物件の所有者がXであるかBであるかが明白でないのでXの損害賠償請求を直ちに認容できず、権利者及び損害額が判決により確定されるまでの暫定的措置として、本件物件の価格としてXが寄託申込書に記載した。
Xは本件物件の転売利益等を含めた損害額408万96円から上記168万円を控除した240万96円の損害賠償を求めて本件訴えを提起した。
これに対してYは、交付金から損害額を超えて支払った過払い金について不当利得の返還を求める反訴を提起した。
なお、原審において、Yは反訴請求を拡張し、YがBに対して本件物件の引渡しを求める訴えを提起していたところ本件物件はBの所有に属する旨の判決が確定し、本件物件はX及びAの所有に属しないことが明白となったので、Xには損害はないとして、Xに交付していた168万円の返還を求めた。
原審判決は、本件は商法580条にいう全部滅失と同視することができるので、運送人は運送品の引渡しあるべかりし日における到達地の価格により損害を賠償すべきであるとして、168万円をその価格とした。
ただし、転売利益等の特別事情による損害は商法581条によれば運送人たるYに悪意又は重過失があるときに限り許されるものであるが、悪意又は重過失があったとは認められないとし、Xの損害は上記交付金によりすでに弁済されているとした。
また、本件損害賠償請求権は運送契約により発生するものであり、運送人Yの契約の相手方は荷送人であるXであるから、YはXに対し本件運送契約を債務の本旨に従って履行すれば足り、その運送品が荷送人の所有に属するか否かは運送人には無関係であるから、Yは本件物件の滅失による損害をXに賠償すれば足りるとした。
したがって、Xの損害賠償請求とYの不当利得返還請求はともに認められなかった。
X・Yともに上告した。 |