防衛目的の第三者割当増資と発行価額の有利性

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防衛目的の第三者割当増資と発行価額の有利性

東京地決平成16年6月1日(新株発行差止仮処分申立事件)
判時1873号159頁、金法1730号77頁、金判1201号15頁

<事実の概要>

Y社は、東京証券取引所第2部に上場する株式会社であり、発行済株式総数は1630万株である。

X1〜X4の4名は、平成16年3月31日現在、それぞれY社株式121万2000株、152万7000株、230万6000株、そして94万3000株を保有する株主である。

X1〜X3は、同年4月27日、Y社に対し、同年6月開催予定の定時総会において、取締役5名及び監査役1名の選任を議案とすることを求める株主提案書を送付した。

これに対してY社は、同年5月18日の取締役会において、Bに対して普通株式770万株を割り当てる新株発行を決議した。

その発行価額は、専門的知識を有する第三者の鑑定に基づき、類似業種算定法により算出された252万25銭、売上高・営業利益などの予想値から絶対評価基準として算出された338円、および同年3月31日までの6ヶ月間のY社平均株価589円の三種類の価格を単純に平均し、393円とした。

なお、Y社は、定時総会において権利行使をすることができる株主について、定款上の基準日である平成16年3月31日現在の株主ではなく、同年6月4日の最終株主名簿及び実質株主名簿に記載された株主とする旨の公告を行った。

X1〜X4は、以上のY社による第三者割当増資の方式による新株発行に対して、差止仮処分の申立を行った。

その理由は、大別して以下の二点である。

第一に、発行価額が特に有利な発行価額に当るにもかかわらず、株主総会特別決議を経ていない違法がある

第二に、Y社の現経営陣の地位の維持、保全を目的としたものであり、著しく不公正な方法による新株発行である



<判決理由>申立認容。

「(1)商法280条の2第2項にいう「特に有利なる発行価額」とは、公正な発行価額よりも特に低い価額をいうところ、株式会社が普通株式を発行し、当該株式証券取引所に上場され証券市場において流通している場合において、新株の公正な発行価額は、旧株主の利益を保護する観点から本来は旧株の時価と等しくなければならないが、新株を消化し資本調達の目的を達成する見地からは、原則として発行価額を時価より多少引き下げる必要もある。

そこで、この場合における公正な発行価額は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきである。

もっとも、上記の公正な発行価額の趣旨に照らすと、公正な発行価額というには、その価額が、原則として、発行価額決定直前の株価に近接していることが必要であると解すべきである(最高裁判所昭和50年4月8日第三小法廷判決・民集29巻4号350頁参照)。

(2)これを本件についてみると、本件発行価額393円は、平成16年5月17日時点の証券市場における1株当たり株価1010円と比較して約39%にすぎない。

また、前記自主ルールは、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の観点から日本証券業協会における取り扱いを定めたものとして一応の合理性を認めることができるところ、本件発行価額は、本件新株発行決議の直前日の価額に0、9を乗じた909円と比較して約43%、本件新株発行決議の日の前日から6ヶ月前までの平均価額に0、9を乗じた650円と比較しても約60%にすぎない。

本件発行価額は、本件鑑定に基づいて決定されたものであるが、上記のとおり、本件新株発行決議の直前日の株価と著しく乖離しており、本件鑑定を精査しても、こうした乖離が生じた理由が客観的な資料に基づいて前記考慮要因を斟酌した結果であると認めることができず、その算定方法が前記公正発行価額の趣旨に照らし合理的であるということはできない。

(3)これに対し、Y社は、Y社の株価は本年1月以降に急激に上昇しており、平成16年5月17日時点におけるY社株式の市場価格1株当たり1010円の数値は、株価の操縦、投機を目的としたXらによる違法な買占めを原因とするものであり、Y社の企業価値を正確に反映したものではないので、本年1月以降の市場価格は公正な発行価額算定基礎から排除すべきであると主張する。

なるほど、・・・Y社の1株当りの株価は、平成15年8月頃は概ね200円台で推移していたところ、同年9月頃から上昇し、平成16年1月に入り概ね500円台に上昇し、同年2月には概ね600円台から700円台で推移し、同年3月800円台を超えて900円台ないし1000円台に上昇し、同年4月には900円台から1000円台で推移し、同年5月には概ね1000円台で推移していることが認められ、・・・Xらによる大量の株式取得が、Y社株式の証券市場における株価に影響を与えていることは否定できない。

しかし、・・・XらはY社へ経営参加や技術提携の要望を有しており、Y社に対する企業買収を目的として長期的に保有するために株式を取得したものであることが窺われ、本件全証拠を精査しても、Xらが不当な肩代わりや投機的な取引を目的として株式を取得したものと認めるに足りる資料はない。

また、・・・Y社の業績も改善していること、証券業界(会社四季報)におけるY社の業績の評価も向上していること、Y社と同様にバルブ事業を営む企業においても、昨年後半から今年にかけて株価が2倍ないし4倍に高騰している事例があることの各事実が認められ、これらの事実に加え、前記のとおりY社の1株当りの株価が今年に入って500円以上で推移している事実を照らせば、Y社株式の株価の上昇が一時的な現象に止まると認めることはできない。

そうすると、本件において、公正な発行価額を決定するに当って、本件新株発行決議の直前日である平成16年5月17日の株価、又は本件新株発行決議以前の相当期間内における株価を排除すべき理由は見だしがたい。

(4)以上によれば、本件発行価額393円は、公正な発行価額より特に低い価額すなわち「特に有利なる発行価額」といわざるを得ず、商法343条の特別決議を経ないで行われた本件新株発行は、商法280条の2第2項に違反するというべきである。」

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