X株式会社の代表取締役Aは、昭和55年暮れ頃、Yに対し、経営多角化のためX社に設置する予定のコンピューター事業部の部長に就任して欲しい旨要請した。
Yは3年後に独立させる等言われたのでこれを承諾し、翌年4月に義弟のBをXに入社させ、5月にX社のコンピューター事業部長に就任した。
Yは、X社入社後、C、Dらを引き抜いて部の陣容を整え、社員のプログラマーやしシステムエンジニア等の人材を他の企業へ派遣して成果を挙げた。
Aは、Yの働きぶりを評価し、なお将来の活躍を期待して取締役への就任を要請し、昭和58年1月にYはX社の取締役に就任した。
しかし、同年6月ころX社の集中移転をめぐってAとYが対立し、Yは独立を決意して同月にB、C,Dらを集め、参加を呼びかけた。
Yは更に、同年9月にも部下3名を自宅に招き、同様に独立参加を勧誘した。
CがAにこの事を打ち明けると、Aは、Yの独立行動が刺激されてX社に混乱が生ずることを懸念し、直接Yに確かめずに急遽Yのコンピューター事業部長の職を解いて子会社Eの取締役兼技術部長として出向させた。
Yは出向後59年3月に退職した。
同年2月から3月にかけ、計9名の従業員がX社を退職した。
同年4月3日、Yほか退職者3名を含めた7名が発起人としてF社を設立し、取締役に就任した。
設立登記前後にX社を退職した残り6名がF社に雇用され、コンピューターソフト関係の業務を開始した。
X社は訴訟を提起し、Yが取締役としての忠実義務に違反したことによる損害(新人教育費用、7名の一斉退社による逸失利益及び信用低下による精神的損害)の賠償請求、Yの受け取った取締役報酬の不当利得返還請求を行なった。
Yは、X社がAのワンマン経営であって取締役会は形骸化しており忠実義務違反を問われることはない、Yの退社とその他従業員の退社には因果関係がない等と主張した。
原審は、7名の引き抜きに対する340万円の支払を命じた。
Yは控訴した。
控訴審は逸失利益の一部のみを認めた。 |