「法は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動はその機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から、取締役において悪意又は重大な過失により右義務(善管注意義務及び忠実義務)に違反し、これによって第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に相当の因果関係があるかぎり、会社がこれによって損害を被った結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被った場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の責に任ずべきことを規定したのである。」
「以上のことは、取締役がその職務を行なうにつき故意又は過失により直接第三者に損害を加えた場合に、一般不法行為の規定によって、その損害を賠償する義務を負うことを妨げるものではないが、取締役の任務懈怠により損害を受けた第三者としては、その任務懈怠につき取締役の悪意又は重大な過失を主張し立証しさえすれば、自己に対する加害につき故意又は過失のあることを主張し立証するまでもなく、商法266条の3の規定により、取締役に対し損害の賠償を求めることができる・・・わけである。」
「代表取締役が、他の代表取締役その他の者い会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何等意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意又は重大な過失により任務を怠ったものと解するのが相当であ」り、「原審の・・・判断は、・・・正当として是認できる。」
本判決には4裁判官による3つの反対意見がある。
商法266条の3第1項の法意に関して最も詳細に論じるものの冒頭部分及び結論部分を以下に掲げる。
「商法266条の3・・・第1項は、取締役が対外的の業務執行につき第三者に対し不法行為に因って損害を与えた場合における規定であって、次のような性質を有するものである。
第1に、そこにいう「悪意又は重大なる過失」は、取締役の対外関係について存することを必要とする。
すなわち、それは取締役の対会社関係の任務懈怠において存するものではない。
第2に、不法行為についてのこの規定は、民法709条に対して特別規定の関係に立ち、同条の適用を排除するものである。
すなわち、この場合、取締役は、対外的の業務執行上の不法行為につき、悪意又は重大な過失のある場合に限り、第三者に対してその責に任ずるのであって、軽過失については責に任ずるものではない。
第3に、この規定は、いわゆる「直接損害」についての取締役の責任に関するものであって、いわゆる「間接損害」に関するものではない。
第4に、商法266条の3第1項は、右のように、第三者に対し直接、不法行為によって損害を与えた取締役の責任に関するものである。
そして、それ以外の取締役は、同条第2項(現在の3項)が定める要件の存するときに、第三者に対して責に任ずることになるのである。」
「本件についてみるに、・・・YがBに会社の事務一切を任せて顧みなかったことは、会社に対する関係において著しい任務懈怠であることは明らかである。
しかし、・・・原審認定の事実関係のみでは、未だY自身がXに対する関係において商法266条の3第1項、または第2項の責任を負うものと速断し難いところがあるのである。
原審はすべからく、Yの行為がXに対して同条第1項の定める不法行為上の悪意又は重大な過失に該当したか否か、または同条第2項(前商法の3項)に該当したか否かの点について、審理すべきであったのである。
原審はこの点において審理不尽の誹を免れ得ない。
さらば、これらの点について更に審理せしめるため、原判決を破棄してこれを原審に差し戻すのを相当と考える。」 |