Y信用金庫S支店の支店長であったAは、支店長在職中の昭和43年10月、個人的な負債の返済資金を捻出するため、Yの顧客用の当座小切手用紙を使用して、額面200万円及び350万円の持参人払い式自己宛先日付小切手2通を振り出し、同日これを事情を知っているBに交付した。
Bはこれを貸金業者Xの交付し、Xはこの小切手を担保にBに550万円を貸し付けた。
Xは同年11月、本件小切手をY信用金庫S支店に支払呈示したが、支払を拒絶されたため、小切手金の支払を求めて提訴した。
XはAが表見支配人に当たると主張して小切手金の支払を請求した。
原審(福岡高判昭和52、10、26金判576号22頁)は、Y信用金庫では、支店長に、顧客から予め資金の預入があった場合にのみ自己宛小切手を振り出す権限を付与していたが、Aは何人からも資金の預入がないのに、本件小切手を振り出して、先日付で自己宛小切手を振り出すことはあり得ない、とも指摘した。
このため原審は、たとえAが金融機関の支配人に該当しても、資金の預入がない場合に、しかも先日付で、自己宛小切手を振り出す権限は全くない、として、Xの表見支配人の主張を排斥した。
Xは上告した。 |