運送会社であるY株式会社は、A株式会社から研磨機の運送の委託を受けた。
Yは、運送する機械類が高価品であるのに対し、会社の資本金が少なく、運送中の事故によって発生する損害の賠償能力に欠けるものであったところから、運送の引受に当り、荷主の申し出た運送品の価額を保険価額及び保険金額としてB保険会社と損害保険契約を締結することの承諾を荷主から得た上で、Yが保険契約者となり荷主を被保険者としてBと損害保険契約を締結し、運送中の事故による損害は保険金により填補し、Yは荷主に対して損害賠償責任を負担しないこととしていた。
本件研磨機の運送に当って、YとAの間で、研磨機の価額を400万円と見積り、これを保険価額及び保険金額として損害保険契約を締結することの合意が成立し、YはBと、Aを被保険者とし、保険金額を400万円とする損害保険契約を締結した。
AはYに無断で、自己を被保険者とし、本件研磨機を目的物とする、保険金額100万円の運送保険契約をX保険会社と締結した。
運送中の事故により研磨機が大破し、Xは500万円の価額の本件研磨機につき約416万円の損害が生じたとして、按分比例により保険金約83万円をAに支払った。
Xは、保険金支払により、AがYに対して有する損害賠償請求権を商法662条に基づき支払保険金額の限度で代位取得したとして、Yに損害賠償金の支払いを求めた。
原審判決では、Aは運送品の価額400万円を保険価額及び保険金額としてYが締結する損害保険契約の利益に与る旨の意思表示をしたものであり、これによりAはYに対する一切の損害賠償請求権を予め放棄したとされ、Xの請求は認められなかった。
Xは上告した。 |