Y株式会社は、その取締役であるAに対し、Y社専務取締役甲営業所長なる名称の使用を承認していたが、AにはY社の手形を振り出す権限を与えていなかった。
AはY社の金策のために、昭和43年8月頃、受取人・振出日・満期を白地とした本件手形をBに示し、同手形による金融のあっせんを依頼したところ、Bは、Aの父でY社の代表取締役をしているCに、個人保証の趣旨で本件手形に第一裏書にCに無断でCの住所氏名を手書きし、その名下に有り合わせ印を押印してC名義の裏書を偽造し、数日後にBに手交わした。
Bは、本件手形の振出日を昭和43年8月15日、受取人をCとそれぞれ補充した上、Xに対し手形の割引を依頼してこれを交付し、その割引を受けXにおいて同手形の満期を昭和44年4月16日と補充した。
Xは、満期に支払場所に本件手形を呈示したが、Y社による支払がなかったため、本訴を提起した。
Xは、AがY社の手形を振り出す権限がなかったとしても、Y社は専務取締役という会社を代表する権限を有するものと認められる名称の使用をAに許諾していた以上、Aに権限がないことを知らずに本件手形を取得したXに対し、前商法262条により本件手形について振出人としての責任を免れないと主張した。
これに対しY社は、Xは、Y社の代表取締役がAではなくCであることを知っていたか、たとえ知らなかったとしても重過失があるなどと主張した。
第1審判決・控訴審判決ともに、Xは、Aの代表権の欠缺(けんけつ)について善意であったから、Y社は前商法262条により責任を負うとした。
Y社は上告した。 |