Xは、昭和58年1月頃、Y証券会社A支店に口座を設けて総合取引をすることとし、昭和59年2月8日には信用取引口座設定約定書をYに差し入れて信用取引口座を開設した。
Y社はXの名義と計算において、昭和59年3月30日から同年10月17日までの間に、債券・転換社債の現物取引、及び株式の信用取引を行ったところ、差損が生じたとして、その差損金・手数料をXの口座から引き落とした。
Xは上記取引はいずれもY証券A支店のBが無断でしたものであるとして、Y社に損害賠償を求めた。
これに対しY社は、一部の売買を除きXから代理権を与えられていた妻の委託があった、委託を受けなかった売買についても、XはY社の送付した月次報告書を承認しているから事後承認した、その余はXが決済しないことによる強制手仕舞いであると主張した。
第1審判決(東京地判昭和62・1・30判時1266号111頁)は、一部の取引について無断売買の事実を認定し、次のように判示して損害賠償の請求を一部認めた。
「口座の設定契約がなされたときは、Y社は、この口座をXの注文による取引の決済にのみ用いるべき義務を負うものと解され、Y社の従業員の無断売買によってXの口座において損害が生じたときは、右契約上の義務の不履行にあたるからその損害を賠償すべきである。」
X敗訴部分につきXが控訴したところ、控訴審判決は、Y社による無断売買はXに効果が帰属しないから、計算上差損が生じ手数料が計上されても、それはXに全く関係のないものであって、それがXの損害となるものではない旨判示して、Xの控訴を棄却した。
Xは上告した。 |