手形偽造と民法110条の類推適用

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手形偽造と民法110条の類推適用

最判22巻13号3382頁、判時546号90頁、判夕230号177頁

<事実の概要>

Aは、昭和34年から昭和35年頃にかけてB信用金庫より金融を受け、B宛ての約束手形を振出した際、当該手形に親族であるYの保証を得ていた。

この手形の書換に当ってYは、その都度実印をAに託し、保証契約締結ないし手形の振出しにつき代理権を与えていた。

Xも、Aに対して手形貸付の方法で金融を行なってきたが、XはAがBより金融を受ける際にYの保証を得ていたことを知っており、自らの貸付に際してもYからの保証を得ていた。

Xは、振出人Aら及びY(共同振出し)、受取人X、額面金70万円の約束手形を保有していたところ、昭和37年12月までの分割払いで返済すべき旨、そして分割払いを1回でも怠った場合は期限の利益を失う旨の準消費貸借契約を締結した。

しかし、支払期日に至ってもYが割賦金の弁済をしないとして、XがYに対して貸金返還請求を行なった

これに対してYは、本件手形中、共同振出人とされているY名義の部分は、AがYの実印を勝手に使用して作成したものであるとして争った。

原審が、表見代理に基づくYの責任を肯定してXの請求を認容したため、Yが上告した。



<判決理由>上告棄却。

「本人から手形振出の権限を付与されていない他人が、手形上に自己の名義を表示することなく、直接に本人名義の署名または記名捺印を手形上にあらわす方式(いわゆる機関方式)により手形を振出した場合に、第三者において右他人が本人名義で手形を振出す権限があると信ずるについて正当な理由があるときは、本人は、右他人のなした手形振出しについてその責に任ずべきものと解するのが相当である。

けだし、前記の場合、機関方式による手形振出は、その形式においては、本人から手形振出しの権限を付与されていない他人が本人の代理人としての資格を表示して自ら署名または記名捺印をする方式(いわゆる代理方式)による手形振出しとは異なるけれども、右はいずれも無権限者による本人名義の手形振出しである点において差異はないところ、無権限者によりいわゆる代理方式による手形振出しがなされた場合には表見代理に関する規定の適用を肯定すべきものであるから、第三者の信頼を保護しようとする表見代理の制度の趣旨から実質的に考察すれば、無権限者が機関方式により手形を振出して本人名義の手形を偽造した場合においても、右表見代理に関する規定を類推適用し、代理方式による手形行為が無権限者により為された場合と同様の法律関係の成立を肯定するのが相当であるからである。

ところで、・・・Aは、Yから本件手形振出しの権限を付与されていないのに、本件手形の振出人欄に直接にYの名義を記載して本件手形を偽造したが、右は・・・AがYから付与されたBに対する手形振出等の代理権の範囲を超えてしたものであり、かつ、XはAにY名義で本件手形を振出す権限があると信ずるについて正当な理由があったというのであって、・・・原審の右認定はこれを是認することができる。

そして、手形偽造の場合においても表見代理に関する規定の類推適用があると解すべきことは前記のとおりであるから、・・・Yは、民法110条の類推適用により、本件手形について振出人としての責に任ずべきであると解するのが相当である。」

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手形を所持しない者の裁判上の請求と時効中断
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支払人として記載された者以外の者のなした為替手形の引受け
外国向為替手形の取立て・再買取の拒絶と買取銀行の権利義務
盗難預金小切手の支払
被仕向銀行の行為による損害と仕向銀行の振込依頼人に対する責任
誤振込みによる受取人の預金の成否
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