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匿名組合を利用したレバレッジド・リース

東京地判平成7年3月28日(出資金返還請求事件)
判時1557号104頁

<事実の概要>

X株式会社は、A株式会社との間で、平成元年2月28日付けで、@Xは、Aが営む後記Aの事業のため金4億400万円を出資することを約し、Aは、事業から生じた利益をXに分配する、AAは、航空機一機を購入して、これをポルトガル航空にリースする事業及び航空機購入のための借入れその他これに関連する事業を行なう、BAは、Xと平等の条件によって、Xを含む匿名組合員から総計約20億円の出資を受け、匿名組合員は、その出資割合に応じて利益の分配を受け、損失を負担する、C事業の損益は、基本リース料(ポルトガル航空から支払われるもの)を基本的な収益とし、借入金の利息と減価償却費等を損失とするものであり、契約で定められた一定のネット・キャッシュ・フローに基づいて計算される、D事業期間は、平成元年3月1日から12年間とし、Aは、年2期の事業期間ごとに事業損益を確定し、これを組合員に帰属させる、E匿名組合員は、当該事業期間中に損失が生じ、その損失が出資金額を超過する場合には、一定の場合に追加出資をする、FAは、善管注意義務をもって事業を遂行するが、事業への出資に基づき匿名組合員が得る結果については何らの保証もしないという内容の匿名組合契約を締結した。

Aは、平成元年2月7日、資本金100万円で設立された、航空機及びその部品のリース業を業とする会社であり、設立に際して発行する株式20株のうち13株を発起人B株式会社が引き受けており、BはY銀行の子会社である。

Xは、Yから、平成元年2月27日、金4億2000万円を、期間2年、利息のみを各月に支払い、2年後に元金を一括弁済するとの約定で借り入れ、内金4億400万円をAに出資金として支払った。

Xは、平成5年10月20日に出資金の返還を請求したが、Aが上記約定によりこれを拒否したため、Xには本件契約締結につき錯誤があったこと、及びAはペーパー・カンパニーでありB及びYについて法人格が否認されると主張して、Yに対して出資金の返還を請求した



<判決理由>請求棄却。

1「(1)本件契約の内容は、・・・いわゆる「レバレッジド・リース契約」(以下LL契約という。)といわれる一種の匿名組合契約である。

(2)LL契約において、リース事業者(本件におけるA)は、航空機を購入し、これを航空会社にリースすることのみを目的とする会社であり、航空機の購入代金の20ないし30%を匿名組合員から、その余を金融機関から調達して、航空機を購入し、これを航空会社にリースする事業を行うものである。・・・

(3)リース事業者の事業の収益は、事業が円滑に進んでいる場合には一定額の航空会社からのリース料のみであるのに対して、経費は、右借入金の利息と航空機の減価償却費(定率法によると思われる。)が主なものである。

したがって、事業開始の当初は、借入金の利息も航空機の減価償却費も多額になるので、損益計算書上は、大きな損失を生じることになる。

しかしながら、事業の経過に伴って、右各経費が減少して、事業継続期間の後半には損益計算書上利益を計上できるようになり、予定された事業継続期間の終期には、支払われることになることが予定されているものである。

(4)これを匿名組合員の側からみた場合には、契約期間(事業継続期間)の前半では、リース事業者の右の損失の負担をしなければならないため、匿名組合員の側にも、大きな投資損失が生じることになる。

しかし、その後半では、匿名組合員は、利益の分配を受けて、出資金を回収するとともに、出資金に対する利潤を得ることになる。

なお、この損失は、法的には契約に基づく追加出資金の払込債務となり、経理処理上は未払金として計上されるが、支払われるリース料によって、借入金の返済がなされ(なお、リース事業者と金融機関との間のローン契約には、いわゆるノンリコース条項が定められていると説明されている。)、その他の経費が賄われている限り、この追加出資金の現実の払い込みを求められることはないと思われる。

(5)このように、LL契約では、契約期間の前半に大きな損失が生じることから、この損失によって、匿名組合員の本来の事業による利益を減少させ、法人税等の負担を軽減することができる。

他方、契約期間の後半では、利益の分配を受けることから、法人税等の負担は増加することになるが、その間の時間差を利用して、本来早い時期に納付しなければならなかった法人税等の負担を、LL契約を利用することにより数年間繰り延べたのと同様の効果を得ることができる。

そして、右の課税の繰り延べの効果を利用して、その資金を事業資金として活用することができるという点に、匿名組合員側のメリットが存在する、」

2「以上の事実関係に基づいて検討するに、Aは、航空機1機を所有し、これを第三者に賃貸して収益を上げ、長期借入金を返済するとともに、損失を匿名組合員に分配するという経済的活動を行なっている。

したがって、そこには他と明瞭に区分されて独立した財産と、それによる営業とが存在するというこができる。

確かに、Xが主張するように、Aは、資本金も小額で、従業員も物的な意味での事務所も存在せず、役員は親会社たるBの役員が兼務している状態で、会社の組織としては、全くのペーパーカンパニーである。

しかしながら、LL契約においては、このようなペーパーカンパニーがリース事業者となることは、法技術的に当初から予定されている事柄であり、前記のような節税効果も、このようなペーパーカンパニーがリース事業者となるからこそ可能となるものである(事業による損失と利益を単一の事業のみを営む事業者に集中しなければ、事業継続期間前半における損失の分配はできないと思われる。

また、事業資金の20ないし30%を負担するにすぎない匿名組合員団が、減価償却による事業損失の100%を負担することも、右の方法によりはじめて可能になると思われる。)。

その意味で、匿名組合員の都合で、Aの法人格を否認することは、LL契約の大前提を揺るがすものといわなければならない。

したがって、本件において、Aにつき法人格否認の法理を適用することはできない。」

3「Xは、Y社員・・・Cから、甲13(シュミレーション表)を示されて、少なくともLL契約による収支関係の説明を受けており、また、甲1(Y国際金融部作成のパンフレット)も受領していることが明らかである。

そして、事業経営者、あるいは経理担当者としてのごく一般的な知識をもって、甲1を通じて甲13をみれば、LL契約が、長期の契約期間による事業の遂行を通じて、課税の繰り延べと出資金に対する利潤を生むものであること、出資金の返還が保証されないこと、匿名組合員の都合による中途解約ができないこと(リース料はもっぱら借入金の返済と匿名組合員への分配に回されるため、リース事業者には解約に応じるための資金の準備がなく、解約による出資金の一括返還は、現実的に困難である。)は、それぞれ容易に理解できるところといわなければならない。

以上のことからすれば、現在の証拠関係からしても、Xに、Xが主張するような錯誤があったとは到底考えられない

また、仮に真実そのような誤解があったとすれば、それはX代表者の事業経営者としての能力、あるいは経理担当者の担当者としての能力の著しい欠如によるものといわざるを得ず、Xに重大な過失があることが明らかである。」

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