地震保険に関する保険者の情報提供義務

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地震保険に関する保険者の情報提供義務

最判平成15年12月9日(保険金請求事件)
民集57巻11号1887頁、判時1849号93頁、判夕1143号243頁

<事実の概要>

X1及びX2は、Y保険会社との間でそれぞれ火災保険契約を締結していた。

本件火災保険契約に適用される保険約款には、地震等によって生じた損害(地震等によって発生した火災等が延焼又は拡大して生じた損害及び発生原因のいかんを問わず火災等が地震等によって延焼又は拡大して生じた損害を含む)に対しては保険金を支払わない旨の地震免責条項がある。

火災保険契約に適用される保険約款には一般に、本件と同旨の地震免責条項が定められ、他方で、地震を原因とする火災等により生じる損害を填補するものとして、別途、地震保険に関する法律に基づき、地震保険の制度が設けられている。

地震保険は特定の損害保険契約に附帯するものとされ、火災保険等の契約者が地震保険を附帯しない旨の申出をしない限り火災保険契約等に附帯して引き受けられるものとされている。

そして、火災保険の契約者が地震保険にも加入するか否かの意思を確認するため、火災保険契約の申込書には一般的に、地震保険に加入しない意思を確認する欄が設けられ、地震保険の附帯を希望しない契約者は、その欄に押印するものとされている。

X1X2は、Yと本件火災保険契約を締結する際に、地震保険不加入意思確認欄に自らの意思に基づき押印を行なっているが、Yは契約締結時に、地震保険の内容及び地震保険不加入意思確認欄へ押印することの意味内容に関する事項について特段の情報提供や説明をしなかったが、これらの事項を意図的に秘匿した上で、同欄への押印を要求した事実はない。

X1X2は阪神・淡路大震災により発生し、延焼、拡大して生じた火災により、火災保険契約の目的物である家財・建物が全焼する被害が発生したため、Yに対し保険金を請求したところ、Yが地震免責条項を根拠として保険金の支払を拒んだ。

そこで、主位的請求として、地震後に発生した火災により火災保険契約の目的物が焼失した旨を主張し、本件火災保険契約に基づいて火災保険金を支払うよう請求し、予備的に、@X1X2はYに対し、本件火災保険契約の締結に当って、地震保険を附帯しない旨の有効な申出をしていなから地震保険契約が成立している旨を主張して、地震保険契約に基づく地震保険金の支払を請求し、AYは、本件各火災保険契約を締結する際に、X1X2に対して、本件地震保険に関する事項について情報提供や説明をすべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったなどと主張して、保険募集の取締に関する法律11条1項(現行保険業法283条1項に相当)、不法行為、債務不履行又は契約締結上の過失に基づき、第1次的には、財産上の損害賠償として火災保険金相当額の支払い又は地震保険金相当額から保険料相当額を控除した差額金の支払を、第2次的には、精神的苦痛に対する慰謝料として地震保険金相当額から保険料相当額を控除した差額金の支払を、それぞれ求め、提訴した

原審では、主位的請求、予備的請求@、予備的請求Aのうち第1次的請求については棄却したが、予備的請求Aのうち第2次的請求について、YはX1X2に対し、本件地震保険に関する事項についての情報提供や説明をなすべき信義則上の義務があるにもかかわらずこれを履行していないことを認定し、これによりX1X2が地震保険契約の申込をする自己決定の機会を喪失したことにより精神的苦痛を被ったものとして、地震保険金相当額から保険料相当額を控除した差額金の10分の1の金額について慰謝料支払を命じた。

これに対しYが上告した。



<判決理由>破棄自判、原判決中、Y敗訴部分につきX1X2の控訴棄却(結果として、X1X2の慰謝料支払請求は棄却された)。

「地震保険に加入するか否かについての意思決定は、生命、身体等の人格的利益に関するものではなく、財産的利益に関するものであることに鑑みると、この意思決定に関し、仮に保険会社側からの情報の提供や説明に何らかの不十分、不適切な点があったとしても、特段の事情が存しない限り、これをもって慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することはできないものというべきである。

このような見地に立って、本件をみるに、前記の事実関係等によれば、次のことが明らかである。

(1)本件各火災保険契約の申込書には、「地震保険は申し込みません」との記載のある地震保険不加入意思確認欄が設けられ、申込者が地震保険に加入しない場合には、その欄に押印をすることになっている。

申込書にこの欄が設けられていることによって、火災保険契約の申込をしようとする者に対し、@火災保険とは別に地震保険が存在すること、A両者は別個の保険であって、前者の保険に加入したとしても、後者の保険に加入したことにはならないこと、B申込者がこの欄に押印した場合には、地震保険に加入しないことなることについての情報が提供されているものとみるべきであって、申込者であるX1X2は、申込書に記載されたこれらの情報を基に、Yに対し、火災保険及び地震保険に関する更に詳細な情報(両保険が填補する範囲、地震免責条項の内容、地震保険に加入する場合のその保険料等に関する情報)の提供を求め得る十分な機会があった。

(2)X1X2は、いずれも、この欄に自らの意思に基づき押印をしたのであって、Yから提供された上記@〜Bの情報の内容を理解し、この欄に押印をすることの意味を理解していたことがうかがわれる。

(3)Yが、X1X2に対し、本件各火災保険契約締結当って、本件地震保険に関する事項について意図的にこれを秘匿したなどという事実はない。

これらの諸点に照らすと、本件各火災保険契約の締結に当り、Yに、X1X2に対する本件地震保険に関する事項についての情報提供や説明において、不十分な点があったとしても、前記特段の事情が存するものとはいえないから、これをもって慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価することはできないものというべきである。

したがって、前記の事実関係の下において、X1X2のYに対する前記の募取法11条1項、不法行為、債務不履行及び契約締結上の過失基づく慰謝料請求が理由のないことは明らかである。」

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支払延期のためになされた手形書替え
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利得償還請求権の発生と原因債権との関係
手形債権と原因関係上の債権との行使の順位
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支払人として記載された者以外の者のなした為替手形の引受け
外国向為替手形の取立て・再買取の拒絶と買取銀行の権利義務
盗難預金小切手の支払
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