「法人の代表者が法人を代表して手形を振出す場合には、手形に法人のためにする旨を表示して代表者自ら署名しなければならないが、手形上の表示から、その手形の振出が法人のためにされたものか、代表者個人のためにされたものか判定し難い場合においても、手形の文言証券たる性質上、そのいずれであるかを手形外の証拠によって決することは許されない。
そして、手形の記載のみでは、その記載が法人のためにする旨の表示であるとも、また、代表者個人のためにする表示であるとも解しうる場合の生ずることを免れないが、このような場合には、手形取引の安全を保護するために、手形所持人は、法人及び代表者個人のいずれに対しても手形金の請求をすることができ、請求を受けた者は、その振出が真実いずれの趣旨でなされたかを知っていた直接の相手方に対しては、その旨の人的抗弁を主張しうるものと解するのが相当である。
・・・本件手形の振出人欄には、ゴム印の押捺によって、「熊本市草葉町4−*、合資会社Y、A」と表示され、「A」の名下に**(Aの苗字)と刻した印章が押捺されていて、「Y」の部分が他の部分に比較してやや大きく顕出されているというのであるが、右の表示をもっては、本件手形の振出人はYであるともA個人であるとも解釈できるものといわざるを得ない。
そして、本件手形の所持人であるXは、Yを振出人として本訴請求をしているであるから、Yが本件手形の振出人としての責任を負うものといわなければならず、これと同趣旨の原判決の判断は正当である。」 |