盗難預金小切手の支払

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盗難預金小切手の支払

最判昭和39年12月4日(利得償還請求事件)
判時391号7頁、判夕169号218頁、金判529号237頁

<事実の概要>

Y銀行の甲支店長は、同支店を振出人かつ支払人とする金額100万円、持参人払式一般線引小切手(いわゆる預手)をA・B両名のために振出し、Xは、A・Bから同小切手の交付譲渡を受け所持人となった。

A・BはYと当座勘定取引規定を取交わしておらず自ら小切手を振出すことができなかったため、甲支店長がA・B両名の有する甲支店に対する預金債権の払戻に代えて小切手を振出したものであった。

ところがXは、譲渡の翌日Cらに本件小切手を盗取され呈示期間内に呈示できなかったため、小切手上の権利を失った。

X及びAらは、Yに対し、盗難にあったため本件小切手お支払を停止してもらいたい旨をただちの届け出た。

本件小切手は、CからD会社に、D会社からEに交付譲渡された。

Yは、呈示期間経過後にEから取立委任を受けたF銀行との手形交換を通じて本件小切手に対する支払を行なった。

そこで、XはYに対し本件利得償還請求を行なった。

第1審判決(東京地判昭和28・1・19)は、Xは失権当時小切手上の権利をもっていたが、小切手を現実に所持せず、また除権判決も得ていなかったため、利得償還請求権を取得するもののそれを主張する資格要件を欠いているとして、Xの請求を棄却した

Xは控訴した。

第2審判決(東京高判昭和30・2・10)は、利得償還請求権は失権当時小切手の所持人として小切手上の権利を行使し得た者に対してのみ与えられるべきところ、Xは失権当時小切手の所持人として小切手上の権利を盗取されており除権判決も得なかった以上、利得償還請求権を有し得ないという理由でXの控訴を棄却した。

Xの上告に対し、最高裁は、利得償還請求権を取得するには失権当時に小切手を所持していたことは必ずしも必要ではなく、その間他の第三者においてその小切手上の権利を取得するに至らず、被盗取者において依然実質上の権利者たることを失っていなかったような場合には利得償還請求権の取得を認める余地があると判示して原判決を破棄し、事件を原審に差し戻した(最判昭和34・6・9民集13巻6号664頁)。

差戻し審である東京高判昭和36・4・24判時261号26頁は、Xは小切手上の権利の失効当時小切手を所持していなかったことから利得償還請求権を有しないということにはならないが、YのEに対する小切手金の支払は債権の準占有者に対する弁済であって有効な支払であり、Yには利得がないとしてXの利得償還請求権を否定した。

本判決は、Xの再度の上告に対する判決である。



<判決理由>破棄差戻し。

「債権の準占有者に対する弁済が有効とされるためには、弁済者が善意かつ無過失であることを要することは、原判決も判示し又当裁判所の判例とするところである(昭和・・・37年8月21日第三小法廷判決、民集第16巻第9号1809頁参照)。

そして、本件小切手は、Cらが正当所持人から窃取した小切手であり、同人らは呈示期間内に呈示を為さず、従って失効小切手となりたるものをその後(勿論呈示期間経過後において)Dに、Dは更にEにそれぞれ譲渡したものであり、従ってその最後の所持人たる前示Eは、期限後の失効小切手の譲受人にすぎないものであるから如何なる意味においても本件小切手としての権利者ということは出来ない(最高裁判所
昭和・・・38年8月23日第2小法廷判決、民集第17巻第6号851頁)。

そして振出人たるYは、本件小切手所持人たる前示Eに支払をなすに当りては、既に検察庁の取調べがあり、前記Eは本件窃取小切手の期限後の裏書による譲受人であることを十二分に了知していたにも拘わらずこれを支払ったものである以上その支払には少なくとも過失あるものというべきであるからである。

従って本件小切手の支払についてYが善意無過失であって有効であるとの原判決の判断には、すでにこの点において理由齟齬又は理由不備の違法が存し、本件上告理由の論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない

そして右の如くYの本件小切手金の弁済にして無効であるならば、右弁済はなかったものとして本件小切手上の権利が手続の欠缺(けんけつ)により消滅した場合、本件小切手の振出人たるYに何らかの利得があれば、これをXに償還すべきであり、もしその利得がなければ、結局Xの本件請求は排斥を免れないことなるから本件を東京高等裁判所に差し戻すのを相当とする。」

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