本件約束手形は、A株式会社名古屋出張所取締役所長B(犬塚雅久)と自称する者が、Aを代理または代表する権限を有しないにもかかわらず、その権限を有する旨を自称して、Yから本件約束手形の振出交付を受け、それを善意のXに裏書・交付したものである(手形面上は、Y→A社名古屋出張所取締役所長B→X)。
原審では、次の事実が認定されている。
@本件約束手形の裏書は形式的に連続している。
AA社名古屋出張所取締役所長B(犬塚雅久)と自称する者が、昭和29年5、6月ころしばらくの間名古屋に滞在し、自称どおり記載をした名刺を使用し、同市昭和区丸屋町6丁目**番地C方に、A社名古屋出張所と書いた看板を掲げ、同人方の一室を事務所として石炭売買の仲介人等をしており、しかも取引の相手方等に対してAの本店は福岡市にある旨を述べていた。
B本件約束手形は、BがAを代理または代表する権限を有する旨自称して、Yから振出し交付を受け、それに裏書をしてXに交付したものである。
CAは福岡市に本店を置いて石炭の売買等を営業としており、同会社には取締役の一員として犬塚勇という氏名の者がいたが、同人は目下所在不明である。
XがYに対し手形金支払を請求し、第1審・第2審ともX勝訴。
Yは、「Aは名古屋出張所を設けたことはなく、また同会社の取締役にはB(犬塚雅久)なる者も存在しない。
ゆえに、本件手形のA社名古屋出張所取締役所長B(犬塚雅久)なる裏書は、偽造または仮設人の署名か、あるいは無権代理人の署名であって無効である」と主張して上告した。 |