Y2は、本船(ジャスミン号)の船主(船舶所有者)であり、Y1株式会社は、本船の定期傭船者である。
インドネシアのシレボン港の荷送人の船舶代理店Aは、インドネシアから韓国へ米傭ペレットの運送(航海傭船契約)に関して、昭和61年4月26、27日に、本件貨物についての船荷証券(本件船荷証券)に署名した。
同署名は、「船長のために(FOR THE MASTER)」という表示のもとにされており、船荷証券の上部には、KANSAI STEAMSHIPCOMPANY,LTD(注:Y1の会社名)BILL OF LADINGの表示がある。
本件定期傭船契約は、国際的に広く使用されているニューヨーク・プロデュース書式によるが、「船長は、傭船者ないしその代理店に対し、メーツ・レシートまたはタリークラークス・レシート及び本傭船契約書にしたがって、船長のために船荷証券に署名する権限を与えることが合意された。」との記載があり、また、Y1と荷送人は本件穀類航海傭船契約において、本件定期傭船者Y1は、本件航海傭船者ないしその代理店(本件ではA)に対し、船長のために船荷証券に署名する権限を与えており、本件船荷証券には、船主・船長を代理した船舶代理店Aが運賃を受領した旨の署名がある。
また、本件船荷証券には、「本船がY1により所有又は裸傭船されていない場合には、これに反する記載にかかわらず、本件船荷証券は、Y1の代理行為に基づき、本船船主または裸傭船者を契約当事者としてこの者としての契約としてのみ効力を有し、Y1は、本船船主ないし裸傭船者の代理人としてのみ行為し、上記契約に関するいかなる責任も負わない。」とのデマイズ・クローズが記載されている。
本船は昭和61年4月27日シレボン港を出港し、同年一部及び船倉内の貨物頂部表面に濡れ、固化、変色の損害が発見された。
本件運送契約に基づく船荷証券所持人に対して貨物保険金を支払ったX保険会社が保険代位に基づき、Y1に対しては運送契約上の債務不履行責任として、Y2に対しては運送契約上の債務不履行責任または不法行為責任として、損害賠償を請求した。
なお、本件では日本法が準拠法として指定されている。
以上の事実関係のもとで、第1審判決(東京地判平成3、3、19判時1379号134頁)は、運送人を船主とする本件船荷証券の記載のとおりの効力を否定すべき事情は発見できないから、本件船荷証券は、その文言のとおり、船主であるY2を運送人とするものであって、定期傭船者であるY1は、本件船荷証券上の運送人ではないものというべきであるとして、Y1に対する請求は失当とし、Y2に対する請求も損害はY2の責に帰すべき事由によるものではないとして、いずれの請求も棄却した。
なお、上記デマイズ・クローズのように、運送人を船主に限定する約款は、船荷証券上の運送人を不明確ならしめるものではなく、運送人の責任に制限を加えて、国際海上物品運送法15条1項に掲げる同法の規定の効力を妨げるものでもないから、同法15条の特約禁止に触れるものではなく、デマイズ・クローズは、その内容どおりの効力を有するとした。
控訴審判決(東京高判平成5、2、24民集52巻2号651頁)もXの控訴を棄却した。
Xは上告した。 |