「商法374条の2第1項3号には、分割会社が本店に備え置くべき書類として「各会社の負担すべき債務の履行の見込みのあること及びその理由を記載したる書面」が挙げられているが、同規定は、形式的にかかる書面の作成、備え置き義務を定めているにとどまらず、分割会社が負っていた債務を分割計画書の記載に従って新設会社が承継する場合においても、分割会社が同債務を負う場合においても、その履行の見込がない限り、会社分割を行なうことができないことを定めているものと解される。
そして、同規定の趣旨が会社債権者の保護にあることからすると、この債務履行の見込みは、分割計画書の作成時点、分割計画書の本店備え置き時点、分割計画書の承認のための株主総会の各時点だけ存すればよいのではなく、会社分割時においてこれが存することを要するものと解するのが相当である。
また、債務の履行の見込みは、各会社が負担する個々の債務につき、その弁済期における支払について存在することを要すると解される。」
本件では、分割日から12日後に再生申立がなされていること、申立理由の1つが、申立日を満期日とする手形の決済ができないことであること、申立に添付された平成15年6月25日のY1社の清算(予定)貸借対照表によれば、Y1社の資産合計が約1億3000万円であるのに対して負債合計は約33億8000万円であること、監督委員が提出した再生計画に対する意見書においても、Y1社が平成15年2月28日時点ですでに10億円余の債務超過であったことが明記されていること、その後再生手続が廃止され破産宣告に至っていること等の事情からすれば、「(Y1社の)債務の履行の見込みは分割計画書の作成時点、分割計画書の本店備え置き時点、分割計画書の承認のための株主総会、会社分割時のいずれの時点においても存在しなかったと認められるから、本件分割は無効事由が存する。」 |