平成10年12月、金融再生法36条1項等に基づいてA銀行の特別公的管理が開始された。
平成9年から10年にかけてA銀行の株式を購入したXらは、その平成9年3月期を対象とする有価証券報告書(以下「64期報告書」という)に、A銀行の関連20社に対する貸付金の貸倒引当金が過少計上され、A銀行保有の8銘柄の上場株式についてのオプション取引に関して資産が計上される一方、株式評価損が計上されていないという虚偽記載があると主張し、同報告書中の財務諸表の記載が虚偽でない旨の監査証明をしたB(のち合併によりY1)監査法人に対しては、平成10年改正前の証券取引法24条の4、22条、21条1項3号に基づいて、当時A銀行の取締役であったY2ないしY4に対しては、同法の24条の4、22条、21条1項1号に基づいて、株式購入額に相当する損害賠償等の支払を求めた。
原判決は、虚偽記載は認められないとして請求をいずれも棄却した。
これに対し、Xらが控訴した。
A銀行は関連ノンバンク3社の不良債権の受皿会社を20社用意し、不良担保不動産を借入先から時価を大幅に上回る価格で購入する等して、ノンバンクの不良債権を解消していた。
金銭債権は、平成14年改正前商法285条の4等では正常な貸倒見積額を控除すべきこととされていた。
控除額の算定は公正な会計慣行によるが、実務上個別の貸倒見込額算定には税法の債権償却特別勘定(法人税基本通達9−6−4)が利用されている。
Xは、客観的に第4分類債権(大蔵省事務連絡上、実務破綻先及び破綻先に対する債権で一般担保等によっても保全されないもの)は、基本通達が示す一般企業会計基準あるいは会計慣行によれば、税務上損金処理を行なうかどうかとは別に100%償却すべきものだった(原審)、公正な会計慣行に合致する会計基準は複数は存在せず、Xら主張以外の会計基準も公正というならばYにその点の立証責任がある(控訴審)と主張した。
また、A銀行は平成9年3月当時、取引所の相場のある株式の評価方法として低価法を採用していたが、8銘柄の上場株式につき706億円余の評価損を有するなか、当該株式を簿価相当額で売却できる権利(プットオプション)を店頭で合計615億7400万円で購入した。
A銀行は先物取引に関する処理基準を類推適用してこのオプション料を資産として計上する一方、貸借対照表には株式の簿価を計上し、損益計算書に評価損を計上しなかった。
保有株式に低価法を採用する場合のオプションを使用したヘッジ取引に関する会計処理基準は、当時確立していなかった。
Xは、A銀行は本件株式を時価計上すべきであったと主張した。
オプション権が行使されると消滅する資産であるオプション料と、オプション権を行使した結果(=損失の消滅)の同時計上は、二重計上となって許されないというのである。 |