YはXに対する売買代金の支払のために約束手形2通を振出し、Xの代理人Aに交付した。
当初これらの手形の受取人はXとなっていたが、そのうちの1通である本件手形について、AはYに対して受取人名を抹消して白地にするように求めた。
従前にも同様のことがあったので、Yは求められるままにこれを白地にしてAに手渡した。
XとAの間の紛争からAは本件手形についてはXに引き渡すことを拒み、受取人欄に自己の名を書き込んだ上で白地式で隠れた取立委任書をいて取立銀行に交付し、支払期日に手形交換の方法で呈示させ、その支払を受けてしまった。
支払期日の1ヶ月以上前に、YはXから書面で、Aが本件手形を正当な事由なくXに交付しないこと、本件手形の受取人欄にはX名義が記載されているはずなので、Xの裏書署名を偽造しない限り、これを処分し又は取り立てにまわすことはできないのであるから、A又はその他の者による取立の場合には善処してもらいたい旨の申入れを受けていた。
XがYに対し、本件手形の手形金相当の売買代金が未払であるとして、その支払を求めて提訴。
原審は、Aは正当な手形上の権利者でないのにその支払を受けたものであるところ、Yには少なくとも手形法40条3項にいう重大な過失があったとしてXの請求を認めた。
Yが、@XはAが取立て等を行なうことを予期して権利保全手続をとるべきであったにもかかわらずそれを怠ったものであり、そのようなYの重大な過失を軽減すべきXの過失を認めなかった原判決には理由に齟齬がある、A原判決は、Xの申入れをもってYはAが権利者でないことを容易に知りうべきであり、しかもその無権利者であることを証明すべき証拠方法をも確実に得ることができたとするが、事実の誤認である、B原判決は、YがXの申し入れにもかかわらず何ら調査することなく支払をしたことに重大な過失があるとするが、これは支払人に所持人が実質的権利者であるかどうか等についての調査の責任を負わせるもので、手形法40条3項の解釈を誤っていると主張して上告。 |