会計帳簿等の提出命令の対象

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会計帳簿等の提出命令の対象

東京高決昭和54年2月15日(文書提出命令申立却下決定に対する即時抗告申立事件)
下民30巻1〜4号24頁、判時925号69頁、判夕387号66頁

<事実の概要>

Xの主張によれば、証券会社であるY1株式会社、Y2株式会社は、A株式会社の株式の売買取引が繁盛に行われていると見せかけるために昭和47年7月から昭和48年1月にかけて仮装売買等相場を変動させるべき売買取引を行なった。

またYらは株式市場新聞に推奨記事を掲載し、さらに自ら手を加えた虚偽の売買取引情報を掲載して、A社株の売買取引を一般に誘引した。

Xは、Yらの行為により、A社株の売買取引が繁盛であると誤解し、またYらの誘引に応じて、株価操作が行なわれた後にA社株を購入し、その後の暴落時に売却したため、差額183万円余の損害を被った。

そこでXは、Yらの相場操縦行為(証券取引法125条(現159条))により損害を被った、として、証券取引法126条(現行160条)に基づく損害賠償請求を本案として提起した

本件は以上の本案訴訟において、XがYらの各違反行為を立証するために、Yらの有価証券売買日記帳(現、取引日記帳)と同勘定元帳(現、総勘定元帳)のうち関連記載のある部分について、民事訴訟312条3号(現行220条3号)及び前商法35条に基づく文書提出を求めて、Xが申し立てたものである。

原決定(東京地決昭和53、1、17)ではXの申立が却下されたため、Xは抗告した。



<判決理由>抗告棄却。

「民訴法312条3号前段により当該文書が挙証者の利益のために作成されたものとして、または同号後段により挙証者と文書所持者との間の法律関係に付き当該文書が作成されたものとして、訴訟の当事者の一方からその文書の所持者である他方にその文書を提出すべき旨の申立があった場合、申立人において前記申立人主張の違反事実がその文書に記載されているとの相当程度の蓋然性を証明することを要し、裁判所が当該文書自体もしくは他の証拠から、その記載事項の詳細はともかく、それに関する記載があると認定できるときにかぎり、裁判所は相手方に対しその文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である。

けだし、文書の提出義務は、裁判の適正妥当な判断を確保するために文書の所持者に特に課せられた公法上の義務であるから、裁判所は右の目的を超えて当該文書の秘密性を侵害することは許されないというべく、また、同法316条は、その命令に従わず提出しなかったときは、その文書に関する相手方の主張を真実と認めることができる旨定めているが、それは、その文書に挙証者のいう趣旨の記載があるのに相手方が故意にこれを隠蔽しているとの推認ができることに基づくのであるから、裁判所が文書の提出命令を発する際には少なくとも当該文書が右推定できる情況にあることを前提としていると解されるからである。

本件において、弁論が進み、関係証人等の証拠調べも行なわれたときは格別として、現段階では、記録によっても、Xが提出を求めているYらの有価証券売買日記帳、同勘定元帳は、前記のとおり、証券行政の一般的必要性のため証券会社に作成を義務付けたものにすぎず、具体的な紛争事故に関する報告書ではないから、X主張のような前記証券取引法125条違反の各事実に関する記載がされていると認定することは困難である。

従って、それらの帳簿書類が挙証者であるXの利益のために作成されたもの、または挙証者と文書所持者との法律関係に付いて作成されたものであるとの蓋然性に乏しく、民訴法312条3号前段、後段による文書提出命令の申立は理由がないといわざるを得ない。」

「商法35条にいう商業帳簿は商人が商法上の義務として作成したものをいい、他の法令上の義務として作成されたものはこれに、該当しないと解するを相当とする。

したがって、本件申立にかかる有価証券売買日記帳がいわゆる講学上の日記帳の一種であり、また、有価証券勘定元帳が複式簿記による物的帳簿の一種であって、いずれも商人の営業及び財産の日々の動態を有価証券に限定して記帳して記帳した同法32条にいう会計帳簿であるとしても、これらの帳簿は前記のとおり証券会社が証券取引法及び大蔵省令に基づいて作成されたものであるから、商法35条の提出命令の対象となる商業帳簿ではないものというべきである。

この点に関するXの主張も失当である。」

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