鋲螺(びょうら)類の製造販売業を営むA株式会社は代表取締役Bとその家族が役員を務める同族会社であった。
Y1〜Y3はA社の取引先であるC株式会社の取締役であったが、C社がA社に対して資金援助を行なったのを契機にA社の取締役に就任し、その旨の登記がなされた。
その後A社が倒産状態となり第1回目の債権者集会が開かれたが、そこでY1らはBに対してA社取締役を辞任する旨の意思表示をなし、以後A社の取締役としての行為を一切行わなかった。
しかし、BはY1らの辞任登記手続をしないまま放置していた(Y1らの辞任登記は本件訴訟提起後になされた)。
債権者集会ではA社を清算せずに事業を継続されることとなった。
X株式会社はメッキ材料販売業を営む会社であるが、債権者集会でA社の事業継続が決まった後にA社と直接取引を行なうようになった。
X社はA社との取引開始に当り、A社が倒産会社であって債権者集会の管理の下に事業継続中であることを認識していた。
その後A社は資金繰りが悪化して再び倒産し、X社はA社に対する売掛金を回収することができなくなった。
そこで、X社がY1らに対し、未払代金債権相当額を損害として前商法266条の3に基づく損害賠償を求めて提訴。
X社はY1らが既に辞任していて取締役でないとしても、前商法14条の類推適用により商法266条の3に基づく責任を免れないと主張した。
第1審は、辞任取締役が「自己の辞任登記がなされておらず不実の登記が残存していることを知りながら過失で不実登記のままこれを放置していたときに限り、その登記につき登記義務者と同様の責任を負担させ、その者は右の登記が不実である旨を善意の第三者に対抗し得ないと解すべき」とし、Y1らはA社の取引先であるC社の取締役としてA社の現状についても経済的関心を持っていたといえるから、「取締役辞任の登記が既になされたか否かは極めて容易に確かめ得たものというべきであって、それを確かめることなく就任登記が残存していることを知らなかったとしても、それは重大な過失に基づくものといわざるを得」ないとした。
そして、過失相殺の上でX社の請求を一部認容した。
X社・Y1らがともに控訴。
第2審は、(「辞任」登記の遅延は単なる遅延であって、これによって不実の登記がなされた訳ではないから、この場合は商法第14条には該当せず、従ってY1らが同条によって・・・辞任した旨の主張をすることができないとはいえない。
・・・Y1らの辞任登記の遅延については、むしろ商法第12条の適用の有無が問題であるが、もともと同条は登記当事者である商人・・・とその取引の相手・・・との関係を律することを目的とする規定であることは明白で、かつ商業登記の申請当事者は商人自体・・・であって登記事項に関係する個々の人間・・・は登記申請の権利も義務もなく、右法条により登記の遅延によって不利益を帰せしめられるいわれはない」等として、第1審判決中Y1ら敗訴の部分を取消し、取消しにかかる部分のX社の請求を棄却し、X社の控訴を棄却した。
X社が、原判決には前商法14条や12条の解釈に誤りがあるとして上告。 |