X1株式会社は、昭和42年にAにより設立されたいわゆる同族会社である。
Aは、X1の設立以降その代表取締役の地位にあったが、平成7年10月31日に死亡し、その妻X2が後任代表取締役に就任した。
この時点で、X1の経営は相当に苦しかったものと認定されている。
X1は、平成6年6月1日に4件(保険金受取人X1)の平成7年5月1日に3件(保険金受取人X1)の、同年6月1日に1件(保険金受取人X1)の、同年7月1日に2件(保険金受取人X29の、Aを被保険者とする生命保険契約をY保険会社との間でそれぞれ締結した(平成6年に締結されたものを「平成6年契約」、平成7年に締結されたものを「平成7年契約」という。なお、保険会社は多数にのぼるが、一括してYと表記する)。
これらの生命保険契約に適用される保険約款には、保険者の責任開始の日から1年内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支払わない旨の特約が定められていた(「1年内自殺免責特約」という。なお、商法680条1項1号は期限を区切らずに自殺免責を定めている)。
また、X1は、平成7年8月から9月にかけて、複数の損害保険会社との間で、被保険者をAとする5件の傷害保険契約をも締結した。
平成6年契約の合計保険金額は、死亡保険金6億円と災害死亡保険金2億円の合計8億円であり、その保険料の月額は85万円に至っていた。
また、平成7年契約の合計保険金額は、死亡保険金7億8000万円と災害死亡保険金約4億円の合計約12億円であり、その保険料の月額は約120万円に至っていた。
Aは、平成7年10月31日にX1の工事に立ち会った後、建物の屋上から転落し、死亡した。
この死亡は、生命保険の集中加入状況と、X1の経営状態と保険料の月額との関係、および事故当日のAの行動から、自殺と認定された。
X1X2が保険金の支払を求めYを提訴したところ、Yは保険金請求権の不存在確認を求めて反訴を提起した。
第1審ではYが公序良俗違反、重大事由による解除、危険の著増を主張したがいずれも認められず、平成6年契約の死亡保険金についての支払を命じ、他方、平成6年契約の災害死亡保険金と平成7年契約の保険金については、自殺を理由に請求を棄却し、Yの反訴を認容。
双方が控訴したが、控訴審ではYが、第1審で主張していなかった商法680条1項1号に基づく免責を主張したところ、原審は、このYの主張を認め、第1審のX1X2勝訴の部分を取消して、保険金全額の請求を棄却した。
これに対し、X1X2上告。
最高裁は、平成7年契約に関する請求部分については上告を受理せず、平成6年契約に関する請求部分についてのみ上告受理。
そして、割増特約部分については上告を棄却したうえで、主契約部分について以下のように判時した。 |