議決権拘束契約の効力 取締役会決議

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議決権拘束契約の効力 取締役会決議

東京高判平成12年5月30日(損害賠償請求控訴事件)
判時1750号169頁

<事実の概要>

A株式会社は、明治42年創業で、X1とYの実父であるBが経営していたゴム産業大手の会社であり、今日、B家による同族会社であるC社、D社、E社を含めてグループ企業を形成している。

Bの死後は、長男であったX1がA社の代表取締役に就任し、その後弟のYもA社に入社し、これまで長期間にわたり代表取締役がX1、代表取締役専務がYとして、兄弟で経営を行ってきた。

Y(昭和5年6月生)は、かねてX1(大正11年11月生)に対し、A社の社長をゆずってくれるよう申し入れていたが、X1はこれを受け入れ、昭和62年8月31日、X1とYは、次のとおり本件合意した。

@X1は、昭和62年9月30日までに、A社及びD社の代表取締役社長を退任し、代表取締役に就任する。

Yは同時にA社及びD社の代表取締役に就任する。

Yは同時にC社及びE社の代表取締役社長を退任し、代表取締役会長に就任する。

X1は同時にC社及びE社の代表取締役社長に就任する。

ただし、YのC社の代表取締役会長への就任とX1の同社の代表取締役社長への就任は当面延期する。

AX1及びYは、昭和70年9月30日にA社・C社・D社・E社の代表取締役をそれぞれ退任し、X2及びFが同時に各社の代表取締役に就任する。

BX2、Fの両名は、昭和62年4月よりA社に入社し、一般社員として待遇されるが、4年以内に取締役に就任し、その時以後は同一報酬、同一待遇とする。

CX1、Yは、Aグループ各社の代表取締役を退任後、昭和80年末まで、両人が同額の一定報酬をAグループより受けることができる。

DX1一族、Y一族のAグループ各社に対する出資比率は平等とし、今後とも両家一族が対等にして機会均等、平等互恵の経営を旨とし、一方が他家を支配できるような持株比率、定款、役員会若しくは組織、派閥等を作らないものとする。

本件合意に従い、X1は、昭和62年9月にA社の代表取締役社長から代表取締役会長になり、Yは、代表取締役専務から代表取締役社長になった。

C社の代表取締役社長は依然としてYであった。

昭和62年4月にA社に入社していたX2(X1の子)とF(Yの子)は、ともに、昭和63年1月にE社の、平成2年にC社の、同年5月にD社の、同年12月にA社の各取締役に就任した。

しかし、平成5年10月頃からX1とYの仲が円満を欠くようになり、平成7年3月からはA社の取締役会においてYを支持する者が多数を占めるようになった。

平成7年9月末日をもって合意Aに定める「昭和70年9月30日」が経過したが、X1もYもともにAグループ各社の代表取締役を辞任することはなく、X2及びFが代表取締役に選任されることもなかった。

その後、X1は、A社・C社・D社の代表取締役を解任され、X2はA社の取締役に再任されなかったが、Yはこれらに賛成した。

さらに、X1は、A社及びC社の取締役に再任されず、X2はC社の取締役に再任されなかったが、これらにもYは賛成した。

そこで、本件合意にYが違反したとして、X1及びX2がYに対して損害賠償を求めた。

第1審判決は、X1とYの本件合意は、商法で定めた会社法制度を否定するに等しく、法的な意味における拘束力を認めることはできないとして、X1の請求を棄却した。

X1は控訴した。



<判決理由>控訴棄却。

「1(1)本件合意@は、・・・取締役会における取締役としての議決権の行使について合意したものと解することができるところ、X1とYとが右のような合意をすることは何ら不当であるとは解されないから、X1及びYは、Aグループ各社の各取締役会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものというべきである。・・・

(2)本件合意Aは(1)X1とYがともに昭和70年(平成7年)9月30日限りでAグループ各社の代表取締役を退任することを合意し、(2)そして、その代わりに、X1及びYをAグループ各社の代表取締役に就任させることを合意したものである。

右(1)の合意は、X1とYの意思のみによって履行し得るものであり、取締役会の決議を要するものではなく、そして、それが商法の精神に反するとも解し難いから、右の合意は有効であり、X1及びYは平成7年9月30日までにAグループ各社の代表取締役を辞任する義務を負うに至ったものというべきである・・・。

次に、右(2)の合意は、X2とFとがAグループ各社の取締役として選任されていることを前提とした上で、各取締役における議決権の行使について、X2とFとが代表取締役として選任されるよう議決権を行使することについて合意したものであるが、取締役会において誰を代表取締役に選任するかにつき予め他の取締役と協議することは、何ら不当ではなく、その際、取締役会における議決権の行使につき一定の者を選任すべきことを約束したとしても、取締役会が多数決によって決議される機関であることに鑑みれば、何ら商法の精神に反するものとはいえず、従って、右の合意もまた有効というべきである。

・・・しかしながら、X1とYとの間でされたこの合意は当事者間の合意にとどまるものであって、この合意によってX2の自己が代表取締役となることの期待権ないし期待利益を生じさせるものと解することはできない。・・・

(3)本件合意Bは、(1)X2及びFを4年以内にA社の株主総会において取締役に選任する旨の合意をし、(2)かつ、X2とFとがAグループ各社において報酬、待遇に関して同一に取り扱われることを合意したものである。

右(1)の合意は、A社の株主総会においてX2とFとをともに取締役として選任するよう議決権を行使すべきことを約束したものと解されるが、・・・右の合意もまた有効である・・・。

次に、右(2)の合意は、・・・極めて抽象的であり、・・・右の合意によってX2及びFが同一報酬同一待遇を受ける期待権ないし期待利益を取得したりあるいはX1及びYに対して同一報酬同一待遇の実現を請求したりする権利を直接に取得するに至ったものとは解し難いものというべきである。

(4)本件合意Cは、X1及びYがA社グループ各社の代表取締役を退任した後において、なお取締役としての地位を有していることを前提に、昭和80年(平成17年)末までの約18年間にわたって双方が同額の報酬をAグループ各社から受領することができる旨を合意したものである。

・・・しかし、昭和62年から平成17年末(X1 83歳、Y 75歳)までの約18年間の長きにわたって議決権の行使に拘束を加える右の約束は、議決権の行使に過度の制限を加えるものであって、その有効性には疑問があるといわざるを得ず、少なくとも、相当の期間を経過した後においては、・・・本件合意Cには拘束されないものというべきである。

そして、その相当の期間は、右の趣旨に鑑みると、長くても右昭和62年8月から10年を経過した後の平成9年末までと解するのが相当である。

(5)本件合意Dは、その合意内容が具体的特定を欠き、未だ法的拘束力を有しないものというべきである。」

判決は以上のように述べたうえで、Yの行為は合意Aに違反したが、Yの行為によってX1に損害が生じるものではない、YがA社の株主総会においてX1を取締役に再任するよう議決権を行使しなかった行為は合意Bに違反するが、これによってX1の権利ないし利益が侵害されるものでないとして、X1の請求を棄却した。

また、YがC及びA社の株主総会においてX2を取締役に再任するよう議決権を行使しなかった点については、合意Cに法的拘束力があるのは平成9年末までであると解されるから、Yの行為をもって債務不履行ということはできないとした。

さらにX2の損害のうち、合意CDの違反に係るものについては、合意の拘束力がないことからY債務不履行責任を問うことができず、合意Aの違反に係るものについては、X2に財産的損害が生じていないとして、X2の請求を棄却した。

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盗難預金小切手の支払
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