A株式会社は、明治42年創業で、X1とYの実父であるBが経営していたゴム産業大手の会社であり、今日、B家による同族会社であるC社、D社、E社を含めてグループ企業を形成している。
Bの死後は、長男であったX1がA社の代表取締役に就任し、その後弟のYもA社に入社し、これまで長期間にわたり代表取締役がX1、代表取締役専務がYとして、兄弟で経営を行ってきた。
Y(昭和5年6月生)は、かねてX1(大正11年11月生)に対し、A社の社長をゆずってくれるよう申し入れていたが、X1はこれを受け入れ、昭和62年8月31日、X1とYは、次のとおり本件合意した。
@X1は、昭和62年9月30日までに、A社及びD社の代表取締役社長を退任し、代表取締役に就任する。
Yは同時にA社及びD社の代表取締役に就任する。
Yは同時にC社及びE社の代表取締役社長を退任し、代表取締役会長に就任する。
X1は同時にC社及びE社の代表取締役社長に就任する。
ただし、YのC社の代表取締役会長への就任とX1の同社の代表取締役社長への就任は当面延期する。
AX1及びYは、昭和70年9月30日にA社・C社・D社・E社の代表取締役をそれぞれ退任し、X2及びFが同時に各社の代表取締役に就任する。
BX2、Fの両名は、昭和62年4月よりA社に入社し、一般社員として待遇されるが、4年以内に取締役に就任し、その時以後は同一報酬、同一待遇とする。
CX1、Yは、Aグループ各社の代表取締役を退任後、昭和80年末まで、両人が同額の一定報酬をAグループより受けることができる。
DX1一族、Y一族のAグループ各社に対する出資比率は平等とし、今後とも両家一族が対等にして機会均等、平等互恵の経営を旨とし、一方が他家を支配できるような持株比率、定款、役員会若しくは組織、派閥等を作らないものとする。
本件合意に従い、X1は、昭和62年9月にA社の代表取締役社長から代表取締役会長になり、Yは、代表取締役専務から代表取締役社長になった。
C社の代表取締役社長は依然としてYであった。
昭和62年4月にA社に入社していたX2(X1の子)とF(Yの子)は、ともに、昭和63年1月にE社の、平成2年にC社の、同年5月にD社の、同年12月にA社の各取締役に就任した。
しかし、平成5年10月頃からX1とYの仲が円満を欠くようになり、平成7年3月からはA社の取締役会においてYを支持する者が多数を占めるようになった。
平成7年9月末日をもって合意Aに定める「昭和70年9月30日」が経過したが、X1もYもともにAグループ各社の代表取締役を辞任することはなく、X2及びFが代表取締役に選任されることもなかった。
その後、X1は、A社・C社・D社の代表取締役を解任され、X2はA社の取締役に再任されなかったが、Yはこれらに賛成した。
さらに、X1は、A社及びC社の取締役に再任されず、X2はC社の取締役に再任されなかったが、これらにもYは賛成した。
そこで、本件合意にYが違反したとして、X1及びX2がYに対して損害賠償を求めた。
第1審判決は、X1とYの本件合意は、商法で定めた会社法制度を否定するに等しく、法的な意味における拘束力を認めることはできないとして、X1の請求を棄却した。
X1は控訴した。 |