AはY株式会社の代表取締役であった。
Aは、昭和41年11月18日、同人が知らない間に取締役を退任させられていたが、Aの代表取締役の資格喪失の登記は昭和43年12月28日に至るまでなされなかった。
Aは、同年12月19日、銀行よりY社名義の手形用紙50枚の交付を受けていた。
Aは、昭和44年1月20日ころ、自己の退任登記がなされたことを知り、同日以降はY社代表者名義の手形を振り出しはしなかったが、それまでの間に既に、Y社代表取締役名義をもって、Bにあてて数通の約束手形を振り出していた。
このようにして振り出された約束手形の1通が、BからCへ、そしてCからXへ裏書譲渡され(当該約束手形を以下、「本件手形」という。)、Xがそれを所持している。
本件手形はAの代表取締役退任登記後に振り出されたものであった。
Xは本件手形を支払期日に支払場所に呈示したが支払を拒絶された。
そこでY社に対し手形金の支払を求めているのが本件である。
原審は、Aの代表権喪失に関しBの善意無過失を認定した上で、Bは「商法上代表権喪失の登記を対抗される善意の第三者であり、かつ、民法112条の善意の第三者にもあたるものというべく、Y社は同条の代表権消滅後の表見代理の責任を負うべきである」として、Xの請求を認容した。
これに対してY社が上告した。 |