給排水・衛生設備工事の請負を業とするX株式会社はY株式会社との間で空調・衛生設備工事の請負契約を締結した。
工事は遅くとも昭和49年1月14日までに完成してYに引き渡されたが、請負代金のうち420万円の支払がなされなかった。
残代金のうち160万円については、その支払のために、YはXを受取人として昭和49年5月15日を満期とする約束手形を振出していた。
XはYに対して手形訴訟を提起して仮執行宣言付判決を得たが、Yが異議を申立て、通常訴訟に移行した。
そこでYは手形金として160万円、請負代金として260万円を請求したが、Yは本件工事の瑕疵や第三者による免責的債務引受等を主張して争った。
第1審(東京地判昭和56・3・25民集41巻7号1505頁)はY主張の瑕疵の一部(26万円分)を認め、これが手形債権と相殺されたとし、手形金134万円、請負代金260万円の範囲でXの請求を認容した。
Yが控訴し、瑕疵や債務引受の主張に加え、手形の原因債権に相当し、Xが本訴で請求していない請負代金債権160万円については遅くとも昭和52年1月15日に消滅時効が完成しているため(民法170条2号)、Yには手形金の支払義務はないとして主張した。
控訴審は免責的債務引受の合意(40万円)があったとして請負代金請求を220万円の範囲で認めるべく第1審判決を変更したが、Yの時効に関する主張に対しては手形訴訟の提起で時効の中断がされたとして退け、手形金請求に関する控訴を棄却した。
Yが、「手形債権と原因債権は法律上別個の債権であるから、手形債権についての請求行為があっても原因債権の消滅時効の進行を中断しない」と主張して上告。 |