昭和56年11月2日、X株式会社シャツユニフォーム資材部カジュアル課長のAと、Y株式会社物資部繊維課洋装品係長のBとの間で、コール天スラックス等の洋装衣料品を、代金5,000万円余でX社からY社に売り渡す旨の売買契約が締結された。
X社は、同年11月20日及び21日に、Y社B係長の指示に従い、売買契約の履行として約定した商品の大部分を引き渡した。
X社は契約の履行部分として代金約4800万円をY社に請求したが、Y社は、自社のB係長は取引の勧誘及び契約条件の交渉事務を行なうのみであって売買契約を締結する代理権はなく、また、AはBが自己または第三者の利益を計る意思をもっていたを知っていたか容易に知りえた、と主張した。
第1審(東京地判昭和59、12、21判時1154号149頁)は、Bが前商法43条1項に定める手代に該当し、その結果担当職務については裁判外の権限を有しており、Y社がBを係長に任命しながら一切の代理権を制限することは、内部規律上の問題はともかく法の予定しないところであるとした。
また、AにおいてBがY社を代理する意思がないことを用意に知りえた事実もない、とした。
その上で本件は洋装の衣料品の売買契約であり、これがBの担当職務の範囲内なのは明らかであるから、売買契約はXY間で効果を生じるとした。
原審(東京高判昭和60、8、7判夕570号70頁)も第1審の判断に付加して、前43条1項所定の商業使用人に全く代理権を与えないことは許されるとしても、AはY社がBに一切の代理権を付与していなかったことにつき、善意無過失であることを述べ、さらに次のように判時した。
すなわち、前商法43条1項は、営業活動に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた商業使用人と取引する第三者が、その都度その代理権の有無及び範囲について調査確認することを要せず、単に上記の使用人であることを確認するだけで取引できるように、委任を受けた事項に関しては、営業主から現実に代理権を与えられている否かを問わず、客観的にみてその事項の範囲内に属すると認められる一切の裁判外の行為を営業主を代理してなす権限を有するものというためには、単に事実行為の委任を受けていれば足り、法律行為に関する何らかの権限を与えられていることは必要でないとした。
Xは上告した。
上告理由は、原審が前商法43条1項の商業使用人に与える権限が法律行為の代理権である必要はなく、事実行為を含めた何らかの権限であれば足りるとした点について、同条の解釈・適用の誤りであるとするものであった。 |