YはAとの間で運動靴の売買契約を締結し、昭和27年5月29日、その代金支払の方法として、受取人欄白地のまま、「株式会社甲野商店商事部代表取締役Y」名義で、@支払期日昭和27年8月7日、手形金額62万5,000円、A支払期日昭和27年8月22日、手形金額75万円とする2通の約束手形(以下、「本件手形」という。)を振り出した。
Aが売買目的物の引渡しをしなかったので、YはAに対し売買契約の解除を通告し、本件手形の返還を請求したが、Aはこれに応じず、債務の支払に充てるため、本件手形を受取人欄白地のままBに交付して譲渡した。
Bは本件手形の受取人欄に自己の氏名を補充してXに白地式裏書により譲渡した。
Xは取立委任の趣旨で本件手形をCに白地式裏書により譲渡したが、支払期日に支払が拒絶されたため返却され、Xが本件手形を所持していた。
ところで「株式会社甲野商店」は、神奈川県藤沢市所在の訴外「株式会社甲野洋服店」が、昭和27年4月30日に商号を変更したものであり、同時にYがその代表取締役に就任したものであるが、当該商号変更・代表取締役就任の登記は、本件手形の振出時はもとより満期当時においてもなされておらず、昭和27年9月15日に至って初めてなされたのであった。
Xは、本件手形取得当時、上記商号変更の事実を知らなかった。
また、XがYを害することを知って本件手形を取得したという事情もなかった。
Xは、株式会社甲野商店なる会社は存在しないとして、Yに対し本件手形の手形金額相当額の支払を求めて本件訴訟を提起した。
原審は「Yは株式会社甲野商店の存在をもって善意のXに対抗し得ないものというべく、したがってYは現実の手形振出人としてその責に任ずべきものといわなければならない」として、Xの請求を認容した。
Yは上告した。 |