インサイダー取引 重要事実としての会社の決定

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インサイダー取引 重要事実としての会社の決定

最判平成11年6月10日(証券取引法違反被告事件)
刑集53巻5号415頁、判時1679号11頁、判夕1006号120頁

<事実の概要>

A株式会社は、B株式会社とC株式会社にその発行済株式総数の過半数をおよそ2対1の割合で保有されている上場会社であった。

B社は、経営再建を目的としてA社に代表取締役としてDを派遣していたが、経営状態が好転しなかったので、平成6年3月ころから、E株式会社を相手方とするM&A(企業買収)の交渉を開始し、A・B・E間で有効期間を3年とする秘密保持契約を締結した。

しかし、C社が難色を示したため交渉はいったん挫折した。

その後、交渉は再開され、平成7年1月11日に、B社常務取締役FがDに、C社はB社主導でM&A交渉を進めて構わないと述べていて感触がよいこと、及びB社・C社のトップ会談の実施が決まったことなどを伝えたところ、DはFに対し「今回は是非実現したいので、よろしくお願いします。」などと答えた。

そして、平成7年3月3日に、B社は保有するA社株式の大半を、C社はほぼ半数をE社に譲渡するとともに、A社がE社及びその関連会社に対して第三者割当増資を行なう旨の契約がB・C・Eの三者間で調印されたので、同日A社の取締役会においても第三者割当増資を承認した。

Xは、E社の監査役兼顧問弁護士であり、E社社長からA社のM&A交渉の一切を委任されていたところ、平成7年2月16日から同月27日までの間に、知人名義でA社株式11万3000株を購入した。

この行為が、前記秘密保持契約の履行に関して、A社が株式の発行を行なうについて決定をしたこと(重要事実)を知って、その公表前に行なった違法なインサイダー取引に当るとして、Xが訴追された

第1審判決はXを有罪とした。

同判決は、会社の業務執行決定機関であるD社長が、第三者割当増資を実施するための新株発行を行なうことをFに表明する形で決定し、Xは、この事実を知るとともに、2月9日ころ、懸案のC社の問題が決着したことを知ることにより、A社の業務等に関する重要事実を知ったと認定した。

Xは控訴した。

控訴審判決は、1月11日の時点ではM&Aの成立は予断を許さない段階であったから、いまだ「株式の発行を行なうについての決定」があったとはいえないとして、第1審判決を破棄差し戻した。

検察官は上告した。



<判決理由>破棄差戻し。

「証券取引法166条2項1号にいう「業務執行を決定する機関」は、商法所定の決定権限のある機関には限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行なうことのできる機関であれば足りると解されるところ、Dは、A社の代表取締役として、第三者割当増資を実施するための新株発行について商法所定の決定権限のある取締役会を構成する各取締役から実質的な決定を行なう権限を付与されていたものと認められるから、「業務執行を決定する機関」に該当するものということができる。」

「証券取引法166条2項1号にいう「株式の発行」を行なうことについての「決定」をしたとは、右のような機関において、株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業当を会社の業務として行なう旨を決定したことをいうものであり、右決定をしたというために右機関において株式の発行の実現を意図して行なったことを要するが、当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しないと解するのが相当である。

けだし、そのような決定の事実は、それのみで投資者の投資判断に影響を及ぼし得るものであり、その事実を知ってする会社関係者らの当該事実の公表前における有価証券の売買等を規制することは、証券市場の公正性、健全性に対する一般投資家の信頼を確保するという法の目的に資するものであるとともに、規制範囲の明確化の見地から株式の発行を行なうことについての決定それ自体を重要事実として明示した法の趣旨にも沿うものであるからである。」

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