Xは、昭和35年4月7日、Y銀行との間で当座勘定取引契約を締結し、X振出しの手形につき、Xの計算において、XのY銀行甲支店に対する当座預金から支払うことを委託した。
当該契約に基づき、Yは、あらかじめX提出の印影と手形上の印影とを照合し、両者符合する場合には支払担当者としてXのため手形の支払をなす義務を負担することとなった。
なお、YからXに差し入れられた当座勘定取引約定書には、「手形小切手の印影で、届出の印鑑と符号すると認めて支払をなした上は、これによって生ずる損害につき銀行は一切その責に任じない」旨の免責約款が置かれている。
Yは、昭和35年9月10日ないし同年10月20日、振出日白地のもの3通を含むX振出名義にかかる約束手形5通につき、その記載の満期日にXの当座預金から支払をなした。
これらの手形は、いずれもXの義母がXの印章を偽造、押捺して作成し、振出したものであった。
当該印章については、専門家による顕微鏡等を用いた鑑定によれば、円の直径に微差がある等若干の相違が認められるほか、肉眼によっても、事後に注意して観察すると、Xの姓に含まれる「林」の字のつくりの右下方部分に差異が認められるものであった。
しかしYの担当係員が、各支払期日にXの届出印鑑と本件各手形上の印影とを平面照合した際には、手形の印影が届け出印鑑と相違していることを発見し得なかった。
Xは、Yが契約上の義務に違反して、Xに支払義務のない偽造手形につき、自ら提出した印影と照合すれば容易に偽造であることが判明するにもかかわらず、照合を怠り、かつ通常の注意義務を尽くさずに支払をなしたこと、また振出日の記載を欠く無効の手形に対して支払をなしたことを主張して、Yに対して債務不履行に基づく損害賠償請求を行なった。
第1審、原審ともXの請求を棄却したため、Xが上告。
(なお、主題との関係で、以下、提出日白地手形への支払に関する点は割愛する。) |