Yは、本件約束手形をAに振出し、AはBに、BはCにそれぞれ裏書譲渡した。
その後BはCから戻裏書を受けて再び本件手形を取得し、それをさらにXに裏書譲渡した。
BがCから戻裏書を受けたのは、Bが解散したためCから手形割引を終了させるため
再譲渡したいとの申し入れを受けBがこれに応じたという事情がある。
XがYに手形金を請求したところ、Yは次のように主張して手形金の支払を拒んだ。
本件手形はYがAに売買代金支払のために振出したものであるが、BはAの資産状態が悪くY・A間の売買契約支払のために振り出したものであるが、BはAの資産状態が悪くY・A間の売買契約はAの不履行により解消されるであろうことを知りながらAから本件手形の裏書譲渡を受けたので、悪意の取得者であり、かつAが倒産して上記売買契約の不履行が確定したのであるから、YはBに対して本件手形金を支払う義務はない。
XはBから隠れた取立委任裏書を受けた者であって、YはBに対する上記の抗弁事由をXにも対抗できる。
かりに隠れた取立委任裏書でないとしても、XはA及びBに関する上記事情を知りながら本件手形を取得した悪意の取得者であって、YはXに対して本件手形金を支払う義務はない。
第1審ではX敗訴。
第2審は、最判昭和37・5・1民集16巻5号1013頁を参照し、「たといX主張の事由があり、Bが右事由を知ってAから(本件手形を)取得したとしても、BからCが・・・善意で右手形を取得した以上Cから更に裏書譲渡を受けてCの有する手形上の権利をそのまま承継取得したB・・・に対しても、またBから右手形の裏書譲渡を受けたXに対しても、・・・X主張の事由をもって本件手形金の支払を拒絶することはできない・・・。
このことは、Xに対する裏書がかくれた取立委任か、通常の裏書かによってなんら左右されない」と判示して、Xが勝訴。
Yは、戻裏書の場合には、最初の裏書取得と戻裏書による取得との間にたとえ善意の取得者が介在したとしても、最初の裏書取得が悪意の取得である以上、その抗弁事由の対抗を受けることは確定した判例であり、学説上も多く異論をみないと主張して、上告した。 |