長期信用銀行であるY銀行は、昭和52年10月1日、A証券会社との間で、手形貸付、証書貸付その他一切の取引に関して生じた債務の履行に適用されるものとして、銀行取引約定を締結した。
本件約定には、A社について会社更生手続開始の申立等があったときは、Y銀行から通知催告等がなくてもY銀行に対する一切の債務について当然に期限の利益を失う旨(5条1項1号)、A社が期限の利益の喪失等の事由によって、Y銀行に対する債務を履行しなければならない場合には、Y銀行はその債務とA社の預金その他の債権とをいつでも相殺することができる旨(7条1項)の定めがある。
A社は、平成9年11月3日に会社更生手続開始の申立をしたが、この時点で、平成6年から平成8年にかけてY銀行が発行した金融債を保有していた。
本件金融債は、Y銀行を登録機関とする登録債であり、A社は社債権者として登録を受けていた。
なおA社は、平成11年12月21日に会社更生手続開始の申立が棄却された後、同月28日に破産宣告を受け、Xが破産管財人に選任されている。
Y銀行は、平成9年12月2日の時点で、A社に対し、上記会社更生手続開始の申立前の原因に基づき、貸付元金5億8559万円余及びその遅延損害金628万円余、並びに保証債務履行請求権163億751万円余を有していた。
そこでY銀行は、本件約定7条の定めに基づき、同日、A社に対する上記債権の一部と、本件金融債の同日時点の償還元金及び既発生の未払利息合計7億498万円余とを、同日を計算実行の日として、対等額で相殺する旨の意思表示をした。
そこでXは、Y銀行に対し、主位的に本件金融債の償還等を求め、予備的に、Y銀行が無効である本件相殺をすることによって、本件金融債の換価を事実上不可能としたことが違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
これに対してY銀行は、本件相殺により同償還請求権は消滅したと主張して争った。
原審は、次のように述べて、Xの主位的請求を認容した。
すなわち、社債について相殺できるとすると、1つの社債が他の社債と異なる性質を持つものになることを容認することになって、大量性、集団性、公衆性という社債の本来の性質に反することになる。
ひいては、社債権者の団体的保護を害する結果となる。
したがって、社債の一種である金融債の償還請求権を受働債権とする相殺の意思表示は、償還期間の到来の前後にかかわらず、許されない、というのである。
また原審は、本件約定の中に、社債の償還請求権を受働債権として発行会社が相殺をすることができる旨の定めがあるとすれば、その約定は公序に反し、無効であり、本件相殺の効力は認められないとしている。
これに対して、Y銀行が上告した。 |