A株式会社はYの娘婿Bの発案に基づき設立された会社で、Y他6名が発起人として名を連ねていたが、実質上の設立事務は専らBが行い、設立後もBが営業部長としてその経営全般を取り仕切っていた。
YはA社の設立に際してもBから名目上代表取締役に就任するように頼まれてこれを承諾した。
Yが取締役並びに代表取締役に就任した旨の登記がなされ、さらにその後も重任した旨の登記がなされたが、Yの取締役並びに代表取締役への就任はA社の設立総会、株主総会ないし取締役会の決議に基づいたものではなく、全く名目上のもので、YはA社の業務には一切関与していなかった。
A社が倒産し、A社に対してコマーシャルフィルム作成代金債権等を有していたXがYに対して前商法266条の3第1項に基づく損害賠償を求めて提訴。
Yは、前商法266条の3にいう「取締役」には、選任決議を経ておらず、従って法律上取締役の地位にいない者は含まれないと主張して争った。
原審はこのようなYの主張を認めながらも、Yは就任登記に承諾を与えている以上、前商法14条により自己が取締役ないし代表取締役ではないことを善意の第三者に対抗できないとし、Bの放漫経営を拱手傍観していた点に重大な過失があったとしてXの請求を認めた。
Yが登記義務者ではないYについて前商法14条を適用したことは法律解釈の誤りである等と主張して上告。 |