Y寺では、昭和27年12月23日ころ、Bの斡旋により、Y所有にかかる立木の売買契約の成立に向けて前渡金が受領できる見込みとなった。
そこで、Y経理部長Aは、「Y経理部長A」なる記名ゴム印と印章をBに預け、前渡金の受領を依頼した。
しかし、売買契約はまもなく不成立に終わり、前渡金も受領するには至らなかった。
その後Bは、Aの承諾を得ることなく、当該ゴム印と印章を使用して、振出人を「Y経理部長A」とする約束手形を作成し、昭和28年3月20日、これをCに交付した。
Cは、本件約束手形の割引をXに依頼し、Xは、この手形にCの裏書を得て、同年4月25日、被裏書人欄に自己の氏名を記入し、自ら本件約束手形の所持人となった。
なおCは、本件約束手形の交付を受けた当時、これが正当な権限によって作成されたものではない事情を十分に察知しており、Xもまた同様であった。
Xが本件約束手形金の請求をなしたところ、原審がその請求を棄却したため、Xが上告した。 |