Y株式会社はAに対して、請負代金債務の支払のために本件2通の約束手形(以下、(イ)(ロ)とする)を振出し、またBに対してやはり請負代金債務の支払のために本件1通の約束手形(以下、(ハ)とする)を振出した。
(イ)(ロ)の各手形はAからXに、(ハ)の手形はBからCを経て順次Xに裏書譲渡された。
Xは、A及びCに対して、各手形の額面に相当する金額を支払って譲り受けたものであり、同人らに対する原因関係においてはなんらの権利も有しておらず、振出人であるYに対してもなんらの原因債権を有していない。
本訴提起当時において、本件手形(イ)〜(ハ)はいずれも満期後3年以上を経過したことによってYの振出人としての前記各手形債務は時効によって消滅し、またA及びBのXに対する償還義務も満期後1年の時効期間の経過によって消滅していた。
そこでXがYに対して利得の償還を求めて本訴を提起した。
原審は、@A及びBが本件各手形を裏書譲渡した段階では、裏書人としての償還義務を負担しており、これによりYに対する原因債権(請負代金債権)が消滅しYにおいてその支払を免れたものと解することはできず、さらにAらは、償還義務者としての責任を追及された場合にはYに対して原因債権を行使することも考えられるため、Yに利得が発生したとはいえない、AまたA及びBのXに対する償還義務が満期後1年の時効期間経過で消滅することにより、AらがXより得た対価の取得は決定的なものとなり、その結果Yに対する原因債権もまた消滅し、Yは原因債権の支払を免れるに至ったものというべきであるが、これによる利益の享受は、Aらの償還義務の時効消滅というYによる本件各手形の振出とは直接関係のない別個の法律上の原因に基づくものであるから手形法85条に定める利得にあたらない旨判示し、Xの請求を斥けた。
Xが上告した。 |