A株式会社が医薬品の製造、販売等を主たる目的とし、大阪証券取引所に株式を上場している会社である。
A社が発売した新薬であるユースビル錠に死亡例を含む重篤な副作用症例が発生した。
そこで、A社は、平成5年10月12日朝、各支店及び営業所に対し、副作用症例の発生、同錠納入先の医師に安全性情報の伝達を行なうべきこと、及び情報伝達の完了を確認するまでの間、医療機関等への同錠の納入は一時中止し、A社から販売代理店への出荷も一時停止する旨を記載した文書をファックスで送付した。
厚生省は同日午後2時ころ同錠の副作用情報に関する緊急安全情報を発表し、A社も同日午後3時ころ、大阪証券取引所において副作用症例が生じたことを主な内容とする情報の記者発表を行なった。
皮膚科の開業医であるXは、A社と取引関係にあるB株式会社から同錠を購入し患者に投与していたところ、10月12日の午後1時20分ころにB社の支店次長が前記ファックスを持参して、Xに閲読させた。
その直後、Xは証券会社に電話をし、信用取引でA社株を売却した。
当該行為が証券取引法166条3項い違反するインサイダー取引であるとして、Xが起訴された。
第1審判決は、ユースビル錠の副作用症例の発生に伴いA社に生ずると予想される損害は、証券取引法166条2項2号イにいう「災害又は業務に起因する損害」に当ると解されるとしても、大蔵省例で定める軽微基準を上回るものと認定できないとした上で、同項4号を適用して、Xを有罪とした。
Xは控訴した。
これに対し控訴審判決は、証券取引法166条2項1号ないし3号に相応する事実について同項4号を適用することはできないとして、Xを有罪とした第1審判決を破棄差し戻した。
検察官は上告した。 |